彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…

その一言に、楓の動きがぴたりと止まった。背筋に冷たい汗が流れる。
秋太は、凍りついた楓の顔を覗き込むようにして、確信犯の笑みを浮かべた。
「君は、アメリカである大手企業のCEOだったんだろう?それに、ハーバードも主席だったそうだね」

楓の世界から、音が消えた。
どうして。どこからその情報を。復讐計画のすべてが、ここで潰えるのか。楓の顔はみるみるうちに真っ青になっていく。

その動揺ぶりを見て、自分の推測が確信に変わった秋太は、慌てて優しい表情に戻した。
「ごめん、ごめん。別に、脅しているつもりじゃないんだ。…君にあまりにも興味があって、どうしても知りたくて、ちょっと調べてしまっただけなんだ」
そう言って笑う秋太。本当は、楓の断片的な様子から直感でカマをかけたにすぎなかったが、楓の反応は彼の想像以上だった。

「僕と付き合ってください」
秋太はもう一度、今度は有無を言わせぬ力強さで言うと、言葉を失っている楓の体をそっと抱きしめた。
断らなければ。この男に深入りしては、すべてが台無しになる。頭ではそう分かっているのに、彼の腕の温かさと、秘密を握られてしまったという衝撃で、楓は抵抗することができなかった。小さく頷いてしまったのは、諦めか、それとも心のどこかで彼の温もりを求めていたからなのか、楓自身にもわからなかった。

それからというもの、秋太は社内で楓の騎士となった。陰口を叩く社員がいれば睨みをきかせ、難しい仕事を押し付けられそうになれば、さりげなく間に入って守った。

そんな二人の様子と楓の並外れた能力を見ていた社長の宗田翔太が、ある日、楓を社長室に呼び出した。
「茅野さん。私の秘書になってくれないか?」
「とんでもない!私にはそのような大役は務まりません」
即座に断る楓に、社長は食い下がった。「どうしても君の語学力と交渉力が必要なんだ。どうか、力を貸してほしい」
楓は熟考の末、こう答えた。
「秘書の経験はありませんので、その役はお受けできません。…ですが、社長が通訳でお困りの時は、いつでもお力添えさせていただきます」

その言葉がきっかけとなり、楓は社長だけでなく他部署からも正式に通訳を頼まれるようになった。冴えない派遣社員を見る目は、次第に「謎の凄腕通訳」へと変わっていった。

穏やかな交際が半年続いたある夜。
秋太は楓を、美しい夜景が見えるレストランへと連れ出した。
デザートが運ばれてきたタイミングで、彼は小さな箱を取り出し、その蓋を開ける。中には、控えめながらも気品のある輝きを放つ指輪があった。
「結婚してください、楓さん」

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