罪な僕は君と幸せになっていいだろうか
黒羽さんの気持ち
黒羽さんが連れてきてくれたカフェは、レトロですごく雰囲気のいいところだった。
僕もこういう店は大好きだ。
窓際の席に3人で座り、それから店員さんが来てくれる。
「莉央じゃん。また来たのか」
「へへっ、別にいいでしょ〜?こっちは仕事で疲れてるんですー。ということで、いつものでお願い!」
「はいはい」
なんだか親しげだ。
店員さんはさらさらの藍色の髪の毛に深い真っ黒な瞳、一般人とは思えないほどの美形の持ち主だった。
というか、どこかで見たことがあるような…?
そう思っていると、黒羽さんが紹介してくれた。
「あ、ごめんね!紹介するよ。こいつは伊神怜央。モデルで同期だったんだ〜!」
そうだ、思い出した。
日本トップのモデル雑誌リュミエールの元専属モデル、伊神怜央くんだ。
モデル界ダントツ一位の人気で、モデルを辞めた時はすごく話題になったんだ。
黒羽さんも、今はリュミエールの専属モデルだ。
「怜央とは私が読者モデルの時に知り合ったんだよね」
黒羽さんは読者モデルの時から専属モデル並みの実力持ちで、伊神くんと一緒に表紙を飾ったこともあったような気がする。
とにかくすごいふたりなんだ。
「その話は後でして。今は注文」
そう急かされて、黒羽さんは慌てた様子で追加の注文をした。
僕は夕飯は食べたからと紅茶だけにした。
ちなみに、悠人も同じ。
「伊神くんと仲がいいんですね」
「ん?あー、まあね。怜央は私の憧れでさ、専属モデルになるきっかけもあいつがつくってくれたんだよ」
「きっかけ?」
黒羽さんは視線を落とし、懐かしむように語ってくれた。
「怜央とは読者モデルの時に会ってさ、あの時は専属モデルにはならない!って思ってたんだ。だって、専属モデルってなんか生意気なだけで読者モデルとほぼ変わんないんだもん」
子供っぽく言う黒羽さんの姿に、思わず笑いそうになった。
「でもさ、怜央と会った途端そんな考え吹き飛んだんだよ。圧倒的な実力を目の前にして、絶対敵わないって思った。だって怜央は専属モデルだったし。だから、絶対追いついてさ。いつか追い越すんだって思って専属モデルになった」
楽しそうにそう語る黒羽さんには敵いそうにない、僕はそう思った。
そして、料理が運ばれてきた。
「ずいぶん盛り上がってんだな。あと、俺はそんな大層な奴じゃなかったよ」
「なーに言ってんの!人気ダントツ一位の怜央くんに言われちゃったら、みんな泣いちゃうね〜」
そう言ってふたりは笑い合っていた。
友人がいない昔の僕だったら、この光景を見ていられなかったんだろうなと思う。
こんなふうに幸せになることを願ってしまう自分が嫌になるから。
またふりだしだな。
「って…ごめんね、ほっといちゃって!それで、なにかな?話あったんだよね」
いつのまにか伊神くんと黒羽さんの言い合いが終わり、そう聞いてきた。
伊神さんは仕事に戻っている。
「えっと…、黒羽さんに聞きたいことがあって…」
「うん、なに?」
僕は勇気を出して聞いた。
「月海くんのこと、好きなんですか?」
黒羽さんはしばらく固まった。
それから少し経って、ようやく言葉を発した。
僕はこの後、聞いたことを後悔する。
「好きだよ。だから、婚約者になれてすっごく嬉しいんだ。陽翔ってモテるからさ、誰かに取られるんじゃないかって怖かったけど。今は婚約者だから」
ズキッ…ズキッ…。
そう言われるとわかっていたはずなのに、胸が痛い。
夢だったらよかったのに。
でも、黒羽さんの気持ちはきっと本物だ。
だって今までの表情よりも、すごく優しくて——。
「それはよかったですね。すみません、変なこと聞いて」
「ううん。全然いいよー!」
うん、うまく笑えてる。
月海くんの幸せを願うなら、男の僕、罪な僕と付き合うのは間違いだ。
これが正しいんだ。
——もう、諦めよう。
僕もこういう店は大好きだ。
窓際の席に3人で座り、それから店員さんが来てくれる。
「莉央じゃん。また来たのか」
「へへっ、別にいいでしょ〜?こっちは仕事で疲れてるんですー。ということで、いつものでお願い!」
「はいはい」
なんだか親しげだ。
店員さんはさらさらの藍色の髪の毛に深い真っ黒な瞳、一般人とは思えないほどの美形の持ち主だった。
というか、どこかで見たことがあるような…?
そう思っていると、黒羽さんが紹介してくれた。
「あ、ごめんね!紹介するよ。こいつは伊神怜央。モデルで同期だったんだ〜!」
そうだ、思い出した。
日本トップのモデル雑誌リュミエールの元専属モデル、伊神怜央くんだ。
モデル界ダントツ一位の人気で、モデルを辞めた時はすごく話題になったんだ。
黒羽さんも、今はリュミエールの専属モデルだ。
「怜央とは私が読者モデルの時に知り合ったんだよね」
黒羽さんは読者モデルの時から専属モデル並みの実力持ちで、伊神くんと一緒に表紙を飾ったこともあったような気がする。
とにかくすごいふたりなんだ。
「その話は後でして。今は注文」
そう急かされて、黒羽さんは慌てた様子で追加の注文をした。
僕は夕飯は食べたからと紅茶だけにした。
ちなみに、悠人も同じ。
「伊神くんと仲がいいんですね」
「ん?あー、まあね。怜央は私の憧れでさ、専属モデルになるきっかけもあいつがつくってくれたんだよ」
「きっかけ?」
黒羽さんは視線を落とし、懐かしむように語ってくれた。
「怜央とは読者モデルの時に会ってさ、あの時は専属モデルにはならない!って思ってたんだ。だって、専属モデルってなんか生意気なだけで読者モデルとほぼ変わんないんだもん」
子供っぽく言う黒羽さんの姿に、思わず笑いそうになった。
「でもさ、怜央と会った途端そんな考え吹き飛んだんだよ。圧倒的な実力を目の前にして、絶対敵わないって思った。だって怜央は専属モデルだったし。だから、絶対追いついてさ。いつか追い越すんだって思って専属モデルになった」
楽しそうにそう語る黒羽さんには敵いそうにない、僕はそう思った。
そして、料理が運ばれてきた。
「ずいぶん盛り上がってんだな。あと、俺はそんな大層な奴じゃなかったよ」
「なーに言ってんの!人気ダントツ一位の怜央くんに言われちゃったら、みんな泣いちゃうね〜」
そう言ってふたりは笑い合っていた。
友人がいない昔の僕だったら、この光景を見ていられなかったんだろうなと思う。
こんなふうに幸せになることを願ってしまう自分が嫌になるから。
またふりだしだな。
「って…ごめんね、ほっといちゃって!それで、なにかな?話あったんだよね」
いつのまにか伊神くんと黒羽さんの言い合いが終わり、そう聞いてきた。
伊神さんは仕事に戻っている。
「えっと…、黒羽さんに聞きたいことがあって…」
「うん、なに?」
僕は勇気を出して聞いた。
「月海くんのこと、好きなんですか?」
黒羽さんはしばらく固まった。
それから少し経って、ようやく言葉を発した。
僕はこの後、聞いたことを後悔する。
「好きだよ。だから、婚約者になれてすっごく嬉しいんだ。陽翔ってモテるからさ、誰かに取られるんじゃないかって怖かったけど。今は婚約者だから」
ズキッ…ズキッ…。
そう言われるとわかっていたはずなのに、胸が痛い。
夢だったらよかったのに。
でも、黒羽さんの気持ちはきっと本物だ。
だって今までの表情よりも、すごく優しくて——。
「それはよかったですね。すみません、変なこと聞いて」
「ううん。全然いいよー!」
うん、うまく笑えてる。
月海くんの幸せを願うなら、男の僕、罪な僕と付き合うのは間違いだ。
これが正しいんだ。
——もう、諦めよう。