許婚の犬神クンには秘密がある!

【第十二話】犬神クンと初デート!

 小学生のとき、黄色のワンピースを着ると、お母さんが『太陽みたいね』って笑ってくれた。

 レモン色のギンガムチェックのワンピースを着て髪を軽く巻いた。肌に軽くパウダーをのせて、薄く色がつくリップを塗ると唇がツヤっと潤う。昨日、レミと一緒に買ったベビーピンクのマニキュアは手元を華やかにみせている。ウエストの辺りでリボンを縛りながらもう一度鏡を覗いた。

「大丈夫かな」

 あれから、優君とは今日の予定の連絡しかしていない。キスのことはなかったことに・・・ってダメダメ今日は待ちに待ったデートなんだから!西条寺千保十二歳!いざ初デートへ参る!

「って初デートかぁ」

 胸に手を当てると、ドクドクと心臓が強く打ちつけている。今日、何度目かの深呼吸をした。

「あっそうだ」

 私は化粧棚の引き出しから、小さな白い箱を取り出した。中にはスワロフスキーのイヤリングが入っている。小さめのイヤリングを耳につけるとキラキラと輝いた。

「何度見てもキレイなイヤリング」
「ワンワンッ」
「あっまめ蔵!どう?似合う?今日はお出かけなの。夕方までには帰って来るから、いい子でお留守番しててね」
「ワンッ」

 まめ蔵の頭をなでると、ゴロンとお腹を見せてきたので優しくお腹をなでた。

「ふふふ」

 おじ様にもうすぐで初老だと言われたことを思い出した。連れて来たときは、生まれて数週間くらいしか経ってなかったっけ・・・。雨に濡れていたせいで体温も下がってて、子犬は温度調整するのが難しいから、気をつけるようにとおじ様や茜さんにもたくさん協力してもらった。ミルクも中々飲んでくれなくて手こずったけど。

「長生きしようねまめ蔵」
「ワンッ!」
「今日は優君と初デートなの。多分だけど。頑張るね」


 まめ蔵を抱っこしながら、リビングまで下りて来た。玄関で水色のミュールを履いてい、最後にもう一度鏡を覗いた。笑顔を作ってみる。

「じゃあ行って来まーす」
「ワワンッ」

 まめ蔵に背中を押されながら、私は外へ出た。

□□□

 駅前には土曜日と言うこともあり、たくさんの人が行き交っている。待ち合わせ場所に着くと、まだ優君の姿はなかった。邪魔にならないように、隅に寄って犬神君を待つことにした。
 そういえば駅前で待ち合わせにしたけど、今日はどこに行くんだろう?そもそもデートってなにするの?私なにも準備してないけど大丈夫かな。どこかお店くらい探した方が良かっ――。

「すみませーん!お姉さん!お姉さんってば」
「わっ」

 見知らぬ男性が立っていた。

「わ、私ですか?」
「そうそう!俺さぁ~道わかんなくなっちゃって、教えてもらえると嬉しいな」
「はい。もちろん。いいですよ」

 ニコニコと距離を詰められながら、スマホの画面を私に見せてきた。

「ここに行きたいんスけど、どうやって行くのが一番近いいかな?」
「ここなら、この大通りを真直ぐに」

 右側の道を指差しながら伝えていると、突然腕を引かれた。細いミュールのせいで足元がグラついた。

「えーわかんないよ~。お姉さんも一緒に着いて来て!!」
「でっでも私、人と待ち合わせが」
「いいじゃん!お姉さん可愛いし、ちょっとだけ付き合ってよ~。俺本気で困ってるの」

 腕を離そうとしたら、更に強く腕を引かれてた。

「痛っ」

 こっ恐い。誰かっ――!

「千保!」

 顔を上げると、優君が人を掻き分けながら、こちらに走ってくる。

「優君っ!」
「ゲッ、なんだよ男待ちか。最悪」

 優君に気がつくと、男は私の腕を介抱した。去り際に舌打ちされたのがわかった。
 最悪なのはこっちなのに・・・。
 男は点滅する青信号を走って行く。

「大丈夫か!?」
「あっ、うん。少し恐かったけど・・・」
「悪い。俺が来るの遅れたから」
「ううん。違う。私がぼおっとしてたからで、その」
「本当に、大丈夫か?」

 優君が私を見てもう一度同じことを尋ねた。男に掴まれた時の腕が痛かった。あのまま連れていかれたらと、今になって怖くなってきた。私は息を吸い込んでゆっくりと吐いた。

「恐かったけど、優君が来てくれたから大丈夫」

 男に捕まれた腕をさすっていると、優君の手が私の手に重なった。私の手より、犬神君の手の方が大きくて優しく包み込んでくれている。そのとき、ようやく自分の手が震えていたのに気がついた。

「家までむかえに行けばよかった」
「ありがとう」

 震えが治まるまで、優君は手を握ってくれていた。
 隣に優君がいてくれる。それだけで、安心した。
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