私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜



 「おはようございます」


 彼はゆっくりと体を起こし、私の手を握った。その温もりは、まるで朝の光のように私の心を照らし、穏やかな安心感を与えてくれる。政略婚という冷たい枠組みから始まった私たちの関係が、こんなにも温かな瞬間に変わっているなんて、まるで夢のようだった。

 朝食の時間は、いつものように二人でキッチンに立つ。広々としたキッチンは、朝の光に満たされ、新鮮な野菜や果物の香りが漂っている。
 悠真はエプロンを身に着け、手際よく食材を切り始めた。その動きは、まるで彼の一部のように自然で、どこか優雅だった。私は彼の横で、サイドのサラダを準備する。トマトを切る手が少しぎこちない私を、悠真はそっと見つめ、微笑んだ。


 「こっちの野菜、少し火を通しすぎましたね」


 彼の声に、私は慌ててフライパンを見やる。確かに、ズッキーニが少し柔らかくなりすぎていた。私は小さく肩をすくめ、苦笑いする。


 「ごめんなさい……失敗しちゃった」

 「大丈夫です。遥さんが作るものは、何でも美味しいですよ」


 その言葉に、胸がぽっと熱くなる。失敗した私を、こんなにも優しく肯定してくれる彼。政略婚から始まった毎日が、こんなにも甘く幸せなものに変わっていた。


「あっ、ありがとうございます……っ」



私は思わず笑顔になり、彼の横で再び野菜を切り始めた。指先が触れ合うたびに、心が小さく跳ねる。こんな小さな瞬間が、私の心を満たしてくれるのだ。

 食事が終わると、私たちは庭園へ散歩に出かけた。朝の庭は、まるで新しい物語の舞台のようだった。風に揺れる木々の葉が光を反射し、池の水面には朝日がきらめいている。花々の香りがそっと鼻をくすぐり、すべてが私たちを優しく包み込むようだ。


 「今日も一日、君を守ります」


 悠真が手を差し出し、いつものように穏やかに微笑んだ。私はその手を取り、しっかりと握り返す。彼の手の温もりが、私の心に安心感を広げる。


 「私も……あなたのそばにいます」


 その言葉を口にした瞬間、胸の奥で温かな波が広がった。お互いの心が紡ぐ、確かな愛だけがここにある。
 手を繋ぎ、笑いながら歩く私たちを、庭園の風景が祝福しているようだった。風がそっと髪を揺らし、花の香りが二人を包む。この瞬間が、永遠に続けばいい――そんな願いが、心の奥で静かに響いていた。

 夜、寝室に戻ると、部屋はいつものように柔らかな光に包まれていた。月光が窓から差し込み、ランプの温かな光と交錯して、ベッドに淡い影を落としている。悠真はそっと私を抱き寄せ、ベッドの端に腰を下ろした。


 「今日も一日、頑張ったね」


 その声は、まるで私の心を撫でるように優しかった。私は彼の胸に顔を寄せ、小さく頷く。


 「うん……あなたがいてくれたから」


 その言葉に、胸の奥に温かさが広がる。彼の穏やかで強い手に包まれ、私は安心して目を閉じた。政略婚のスタートは、甘すぎる驚きと戸惑いに満ちていた。だが、今ではそれが私たちの“日常”になっていた。悠真の優しさ、過保護な行動、SPとしての鋭さ――そのすべてが、私を愛で満たしてくれる。



< 33 / 34 >

この作品をシェア

pagetop