私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜
「それならいいのですが、今日も一緒に朝食を作りましょう」
彼の提案は、まるで当たり前のようにさらりと響いた。一緒に朝食を作る――そんな日常的なことが、なぜか私には特別なことに思えた。政略婚の相手と、こんな風に朝を過ごすなんて、想像したこともなかった。
私は慌てて頷き、ベッドから降りようとすると、彼がさっと手を差し出した。
「ゆっくりでいいですよ。まだ眠そうですね」
その言葉に、胸がドキリと高鳴る。どうしてこの人は、こんなにも私の心を見透かしているのだろう。まるで、私の小さな不安や戸惑いまで、すべてを包み込むような優しさだった。
キッチンは、広くて清潔で、朝の光が大きな窓からたっぷりと差し込んでいた。カウンターには新鮮な野菜や果物が並び、まるで絵本の中の朝食の準備風景のようだった。悠真はエプロンを手に取り、慣れた手つきで着けると、私にもそっとエプロンを渡してくれた。
「これ、着けておくと安心ですよ。汚れても僕が洗いますから」
その言葉に、なぜか笑みがこぼれる。こんな小さな気遣いまで、彼は自然にやってのける。
私はエプロンを身に着け、カウンターの前に立つ。包丁を手に取ると、隣で悠真が野菜を切り始めた。その手つきはあまりにも手際よく、まるで料理が彼の一部であるかのようだった。
「遥さん、包丁の持ち方、もう少しこちら側に寄せたほうが安全ですよ」
彼の声に、ハッと我に返る。見ると、私の手元をじっと見つめていた彼が、そっと近づいてくる。次の瞬間、彼の手が私の手に重なり、包丁の持ち方を軽く調整した。