魔女のリリア~世界で一番美味しいプリンを探して~
白薔薇の妖精

「いた!」

リリアとココアが一つの薔薇を指さします。
すると、観念したように雪のような花びらの中から、すっと透明な羽を羽ばたかせ一人の妖精が姿を見せました。
真っ白な髪と真っ白な肌、真っ白な薔薇の花弁のような服……何もかもが真っ白な妖精は、まさにスノーローズの妖精。
綺麗で愛らしい妖精にリリアは思わず可愛いと口にしますが、妖精は当たり前とでもいうように鼻を鳴らしました。

「貴方、魔女?」

「そうよ。わたしはリリア。貴方は?」

「わたしはハンナ。スノーローズの妖精の一人よ。まさか、見つかってしまうなんて。妖精失格だわ」

ハンナと名乗った妖精は、リリアに見つかったことが悔しかったのか大きくため息をつきました。

「はあ……貴方たち、あの人間に言われてわたしを探していたんでしょ?」

「そうよ。店長さんは怒られるのが怖くてお菓子を作れなくなってしまったの。でも、どうしてそんなことを?」

「そんなの決まっているじゃない! あの人間が約束を破ったからよ!」

妖精は、お店の方を睨み付けます。

「約束? 一体どんな約束をしたの?」

「花の蜜を使うのを許す代わりに、わたしたちにお菓子を渡すって約束よ。なのにあの人間、花の蜜は持って行くくせに、もう何年もお菓子を持ってこないの」

ハンナは、約束を破った店主に怒り、妖精を代表して店主の夢に出たと言います。
リリアはハンナの顔を見て、首をかしげました。
ハンナは嘘をついている様子はありません。
でも、店主も嘘をついていないように見えました。
リリアは考えます。そしてある結論を出しました。

「ハンナさん。こうなったら直接聞いてみましょうよ」

「ええっ!? でも、妖精は人間の前に姿を現したらいけないのよ!」

「じゃあ、わたしのポケットに隠れていて。そうしたら姿を見せなくても話せるわ」

リリアの言葉を聞いてハンナは悩みましたが、しばらくするとリリアのポケットに入ってくれました。
リリアはそれを確認し、ココアをまた店の前で待たせ、お店へ向かうのでした。


そして、店主とポケットの中のハンナを会話させると驚愕の事実が判明したのです。

「つまり、妖精さんたちが約束していたのは店長さんの前の店長さん。店長さんのお母さんってことですか?」

なんと、ハンナたち妖精が約束していたのは先代の店主だったのです。
先代店主は花の蜜をもらう代わりに、妖精が好むお菓子を渡し約束を守っていました。
しかし、花の蜜の約束をその後店を継いだ今の店主に伝えていなかったのです。
たった今真実を知った店主はとても驚きました。
同じように真実を知ったハンナは、小さく頷きました。

「そうみたい……。確かにあの人間と顔はそっくりだけどよく見ると何か違うわ。それに、約束のことを知らないなら、お菓子を渡しに来れるはずないわよね。わたし、間違ったことをしていたのね」

ハンナは小さな声でごめんなさい、と夢でしてきたことを謝りました。
謝られた店主は慌てふためきます。

「そんな、謝らないでください。わたし、母から妖精の存在を聞いたことはあったんです。でも、わたしは母の言うことはお伽話だと思っていて……。今まで約束を守らずに、花の蜜を使ってしまってごめんなさい」

店主はリリアのポケットへ向かって小さく頭を下げます。そして、こう続けました。

「またお菓子を作ったら、今度はたくさん妖精さんたちが好きなものを作ります。なので、花の蜜を分けていただいてもいいですか……?」

「もちろん。今までの分もたくさん作ってね。わたしたち、人間の作るお菓子が大好きなんだから」


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