反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
「――え?」

 暗闇に包まれ、息が止まった。
 雷が遠くで轟き、雨の音が廊下に響く。
 停電のアナウンスがかすかに流れた。
『復旧まで少しお待ちください』

 胸の奥がきゅっと締め付けられる。

――雷も、雨の音も怖い。どうしよう、怖くて震える……

 小春の胸に、幼い日の記憶が蘇る。

 あの夜のこと――まだ幼かった頃、雷が鳴るたび、家の中でひとり布団にくるまって震えていた。
 父も母も、仕事で不在だったあの夜。

 窓ガラスに打ち付ける雨の音と、天井を揺るがす雷鳴。

 小さな体でどうすることもできず、ただ目を閉じて「お願い、やめて」と心の中で叫んでいた。

 まだ幼かった私が窓の外をじっと見て泣いていたとき、玄関の戸を開け、びしょ濡れの服のまま立っていた夏樹。

「小春、大丈夫だよ」

 あの低く落ち着いた声に、自然と肩の力が抜けた。
 濡れた髪から雫が落ちるのも気にせず、ただ私の隣にしゃがんでくれた。
 そのとき、夏樹が王子様に見えたんだ。

――夏樹が傍にいてくれるだけで安心できた。

 なのに、今隣に夏樹はいない。

あのときの恐怖が、今も胸の奥でざわめく。
――こんな夜は、ひとりじゃ耐えられない。
< 148 / 157 >

この作品をシェア

pagetop