反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
「今日はたまたま私が寝坊したけど、いつもはちゃんと起きれるから!」
「ーーはいはい。静かにして」
夏樹は鬱陶しそうに手をひらひらと振り、小春との距離を少し広げる。
それでも歩幅をほんの少しだけ緩めてくれることに、小春は気づいていた。
(なんだかんだで、置いていったりはしないんだよね)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
けれどその温もりは、次の瞬間に打ち消された。
「おい、桜田!」
振り返ると、クラスメイトの男子が数人、校門のところで手を振っていた。
「昨日の宿題、写させてくれよ!」
「え、もう……しょうがないなぁ」
困ったように笑って答える小春に、夏樹はちらりと視線を寄こした。
「……お人好し」
吐き捨てるように呟く声は、周囲のざわめきにかき消される。
「え、なにか言った?」
「別に」
前を向く横顔は、どこか拗ねているようにも見える。
小春が困った顔で視線を逸らすと、夏樹は男子たちを睨みつけた。
「……しょうがねぇな。俺が貸してやる!」
「まじ?ありがとう!」
その声に、男子たちが群がってきた。
夏樹は自分のノートを取り出すと、男子たちに向かって軽く押し出すように渡す。
「あいつらにお前のノートなんか貸すな」
「えっ……あ、ありがとう」
小春は驚きつつも、胸の奥にじんわりと温かい感情が広がる。
夏樹は何事もなかったように前を向き、歩き出した。
小春はただ、その後ろ姿を追いかけていた。