反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
 昼休みの廊下。
 女子たちのはしゃぐ声が響いてきた。

「ねぇ、見た? 七瀬くん!」
「まじで……フロス様だよね!」

 女子たちは、夏樹を裏で「フロス様」と呼んでいた。
 それは、“フローズン(Frozen)”=冷たい、氷のような彼のツンツンした態度と、クールで近寄りがたい雰囲気から来ている。
 無愛想で冷たいのに、ほんの少しだけ優しさを見せる――そのギャップに、女子たちは胸をきゅんとさせるのだ。

「七瀬くん! 今日一緒に帰ろ?」
「ねぇねぇ、LINE交換しよ?」

 数人の女子に囲まれた夏樹は、眉をひそめたままポケットに手を突っ込み、視線を落とす。

「……興味ねぇ」
「えー!お願いー!」
「そういうの、めんどくせぇから」

 ばっさり切り捨てられて、女子たちは不満げに顔を見合わせた。
 でも、逆に惹かれてしまうのか、去り際に「やっぱカッコいいよね」と囁く声も聞こえる。

 ――やっぱり、冷たい。

 少し離れた場所で見ていた。どこかほっとしている自分がいた。
彼の優しいところは、私が1番よく知っているから。

 それがうれしくて、でも、なんだか苦しくて。
 小春は胸の奥を押さえながら、無愛想な横顔を見つめ続けた。

 チャイムが鳴り、朝の空気を切り裂く。
 二人の一日は、こうしてまた動き出す――。
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