反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
 静かに、けれどはっきりと。
 その一言で、胸の奥がドクンと鳴った。

 秋が一瞬だけ目を細めた。
 穏やかな声なのに、そこにほんのわずかな張り詰めた空気が混じる。

「……15時までならいいよ」
「は?」
「15時までなら、夏樹くんと一緒に回ってもいい。
 でも、その後は――僕が小春と一緒にいたい」

 甘くも静かな声。
 それなのに、聞いているだけで心臓がぎゅっと締めつけられた。

「おい、勝手に決めんなよ」
「勝手じゃないよ。小春ちゃんに聞いてる」

 二人の視線がぶつかる。
 その間で、私は何も言えなかった。
 どちらも、私をまっすぐ見ていて――逃げ場なんてなかった。

 胸の中で、何かが強く揺れた。
 昨日、夏樹に誘われた時の嬉しさ。
 秋の優しい笑顔と、まっすぐな言葉。
 どちらも大切で、どちらかなんて選べない。

(……どうしよう)

 文化祭のざわめきの中で、時計の針の音だけがやけに大きく響いていた。
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