反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
 射的コーナーの前で立ち止まる。
「やる?」
「うん!見てて!」
 小春は張り切って構えるが、弾は全部はずれ。
 そのたびに、夏樹の口元がかすかに緩んだ。
「笑った?」
「別に」
 最後に夏樹が一発で的を落とす。
 私が外してばかりだったのに、夏樹が取ったぬいぐるみを「ほら」と無造作に渡してくれた。

「ほら」
「え、これもらっていいの?」
「いらねぇし。おまえ、こういうの好きだろ」
「…ありがと!」
 ぬいぐるみを抱きしめると、自然と笑顔になった。

 校庭に出ると、いい匂いが漂っていた。焼きそば、チョコバナナ、ポップコーン。
「ねぇ、なつくん!焼きそば、行こう!」
「おまえ、食い気しかねぇな」
「文化祭といえばでしょ!」
 そんなやり取りをしながら並んで買った焼きそばを、二人で分け合う。
「……あ、これ、ソース濃いね」
「ちょ、こぼすなよ」
 口元についたソースを指でぬぐわれ、思わず息が止まる。
「……ほら」
「……ありがと」
 夏樹は視線をそらして、「行くぞ」と早足になる。

 その背中を見て、小春は小さく笑った。

 焼きそばを食べ終え、校庭のベンチで少し休憩する。
 風が通り抜けて、遠くで吹奏楽の音が聞こえてきた。
 ふと、空を見上げると、青空がまぶしくて――胸の奥がじんわりと熱くなる。

(なんか、昔みたいだな)

 気づけば、記憶がふっとよみがえる。
 小さい頃、毎年夏に行っていた町内のお祭り。
 私は、いつも夏樹と一緒だった。

 夜店の灯りがきらきらして、金魚すくいの水面がゆらめいて。
 夏樹は、今みたいに射的でぬいぐるみを取ってくれた。
 わたあめを半分こして、手がべたべたになるまで笑って。

『小春、こっちだよ』
 あの頃の夏樹は、今より少し背が低くて、それでも頼もしくて。
 いつも手を繋いで、人混みの中を導いてくれた。
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