反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
 でも、なんだか夏樹の様子がおかしい。
 いつも通りに話しかけても、返事がそっけない。
 朝は「おはよう」って笑ってくれたのに、
 さっきは目を合わせてくれなかった。

(……なんで? 怒ってる? 私、なにかした?)

 胸の奥がもやもやして、授業なんて全然頭に入らない。
 黒板を見るふりをしながら、つい前の席の後ろ姿を追ってしまう。
 ――でも、彼は一度も振り返らなかった。

「なつくん、ノート見せてもらってもいい?」
 勇気を出して声をかけたのに、
「今、持ってねぇ」
 短く言って、夏樹は背を向けた。

 嘘だ。
 さっきまで机の上に置いてたの、ちゃんと見えてた。

 どうしてそんな嘘つくの。
 どうして、そんな顔するの。

 問い詰める勇気もなくて、ただ「そっか」と笑った。
 その笑顔すら、引きつっていたのが自分でもわかった。

 そしてあっという間に放課後になってしまった。
 もう、このまま帰ったら、何もわからないまま終わっちゃう。
 そう思って、勇気を振り絞って声をかけた。

「ねぇ、なつくん……一緒に帰らない?」

 一瞬、夏樹の肩がぴくりと動く。
 だけど、すぐに視線をそらして、短く言った。

「悪い、今日は部活ある」

「あ、そっか……」
 声が震えた。
 言葉の奥に何かを隠してるような気がして、胸がきゅっと痛む。

 今を逃したら、もうこんなチャンス、二度とこない気がした。

(ずっとこのままでいいの……?)

 手のひらをぎゅっと握りしめる。
 夕陽が差し込む教室。
 夏樹の背中が、遠くへ行ってしまいそうで――。
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