反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

夏樹side⑪

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の中をやわらかく染めていた。
 まぶたの裏がうっすら明るくなるのを感じながら、俺は布団の中で目を閉じている。

 ――そろそろ来るな。

 玄関のノックの音がして、続いて軽い足音。
 もう聞き慣れた、あいつのリズムだ。

 「なつくん、もう朝だよ〜」

 その声を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり温かくなる。
 ……まったく、昔から変わらない。
 けど、最近はその声が少しだけ甘く聞こえるのは、俺のせいか。

 寝息を装いながら、気づかないふりをする。
 足音が近づいてきて、布団のすぐそばで止まった。

 布団の端から、かすかに小春の匂いがする。
 柔らかくて、甘い匂い。
 そのまま、そっと覗き込むような気配がして、胸の鼓動が少し早くなった。

 ……近い。

 静かな間。
 小春が、小さく息をのむ気配。
 そして、かすれそうな声で呟いた。

 「……いつ見ても、かっこいいなぁ……」

 ――は?

 危うく反応しそうになって、布団の中で思わず息を止める。
 おいおい……そんなこと、本人の前で言うなよ。
 心臓、変な音してるだろうが。

 あいつは気づかず、さらに続けた。
 「もう、恥ずかしいよ〜……昨日のこと思い出しちゃうじゃん……」

 その言葉で、昨日の夕陽とあの瞬間が鮮明によみがえる。
 胸の奥が、少しだけ痛いほどあたたかくなった。

 「……おはよう、なつくん」
 小さな声でそう言ってから、
 「今日は、私の勝ちだね」
 って、得意げに笑う。

 ――ああ、負けたな。
 でも、不思議と悔しくなかった。

 気づけば口が勝手に動いてた。

「……は?」

 小春が「えっ!?」と飛びのいた瞬間、堪えてた笑いがこぼれそうになる。
 布団を少しずらして顔を出し、わざと眠たげに見上げる。

 頬を真っ赤にして立ち尽くす小春。
 朝日を浴びて、髪が少し光って見える。

 驚いた顔も、照れた顔も、なんでこんなに可愛いんだろう。

 ――もう、この先ずっと負けてもいいかもな。
 そう思いながら、俺は小さく笑って「おはよう」と呟いた。
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