もしも、あっちの部活を選んだら?
六月になり、季節がだんだんと夏に近づいていく。
入部して二ヶ月も経つと未経験だった一年生も経験者としての自覚がでるみたい。

私たち一年生の練習内容はまだ基礎ばかりだけど、先輩たちと一緒にコートに混じって練習する機会も増えてきた。

もうすぐ、先輩たちの試合が近づいてくる。
部内全体に試合前のソワソワとした空気感が流れているんだよね。

コウと試合をしてから、またテニスをするのが楽しくなってきた。
他の一年生も上達してきてるけど、私だって負けていられない。

中学生って部活が占める時間の割合が大きい。
だから部活での交友関係がクラス内でも影響される。

私のクラスはバスケ部が多いから、美優と話す機会が減ってしまう。
同じクラスにテニス部はコウしかいないからな。

それなのにクラスでコウと話すと変な噂が立ちそうだから困っちゃうよ。

「おーい、気合い足りねーんじゃないのか?」

コウの声が聞こえて思わずビクッとした。

「もっと、こう勢いよくラケット振らないと」

あーあ、さっきのコウにばっちり見られてた。

「はいはい、わかってますよーだ」

ぷくっと顔を膨らませて、コウを睨む。
わかってること言われるとテンション下がっちゃうよね。

中学校生活は部活を頑張るって決めたんだもんね。
絶対テニス部でレギュラー取るんだから。

もう一回、壁打ちをする。
一球一球をちゃんと見据えてラケットを振る。
よし、だんだん上手くできるようになってきた!

「真澄もやればできるじゃん」

またコウが私のことを見ていたよ。

「私のこと気にしすぎじゃない? 自分の練習したら?」

「まー、俺は真澄よりもコントロールがうまいからな」

本当、一言余計。
 
「伊崎、手空いているならこっちの練習手伝え」

西崎先輩に呼ばれてコウは行ってしまった。
私も早く先輩たちの練習を手伝えるようになりたいな。

私はまた一人、壁に向かってまたボールを打ち始めた。
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