もしも、あっちの部活を選んだら?
「ねえ、聞いたよ。真澄の話」

なぜか私のバドミントンのことが部活外でも広まっているみたい。

「真澄がバドミントンの天才だなんて知らなかったな」

「天才なんてそんな大袈裟な」

「その話、私も知っているよ」

美優と教室で話していると、美優と同じ女子バスケ部のグループがやってきた。

「竹口さんのこと、バスケ部でも持ち切りだからね」

「いやいや、そんなに大したことじゃないのにな」

花村さんがキラキラと笑っている。
バスケ部女子ってみんなキラキラしているから、ちょっと苦手意識あるんだよね。

「美優、部活でも竹口さんのこといっぱい自慢しているからね」

へえ、もうバスケ部の中で美優は下の名前で呼ばれているんだ。
ちょっぴりだけど寂しい気分。

「まだ初めて一ヶ月の初心者ですから」

「バドミントンの天才が何言っているんですか」

ずっとスポーツに苦手意識を持っていたから、こういうこと言われるのに慣れてない。
でも悪い気はしないよね。

もしかしてこの部活選択、大正解だったかも?

コウが私の方を見ていることに気がついた。
中学生になってもコウはいつでもみんなの人気者だ。
クラスの男子達の輪の中心にいながらコウはにこりとした笑顔を私に向けていた。

「そういえばさ、昨日のドラマ見た?」

花村さんが話題を別なものに切り替える。

「うん、見た見た。めっちゃ面白かったよね」

バスケ部女子達がワーッと花火でも打ち上がったかのように盛り上がる。

「バスケ部で流行っているドラマでもあるの?」

「うん、すっごく面白いドラマがあるの。私も見ているんだ」

美優にこっそりとドラマのことを聞いてみる。

主人公はどこにでも普通のOLのはずだったのに、ある日運命の人に出会ってからその人を追いかけてパラレルワールドを駆け巡る話みたい。
主人公を演じる有名な若手女優がパラレルワールドでさまざまな仕事を演じることでも話題になっていたドラマだ。

小学生の時、美優はドラマなんて見なかったのに。
中学生になると変わるもんなんだね。

「昨日の警察の制服も似合ってたよね」

いつの間にか美優は私よりも花村さんたちとの話に夢中になっていた。
同じ場所にいるのに、私のことなんて見えてないみたい。

「私、そろそろ戻るね」

美優の友達は私だけじゃない。
そんなことわかっていたのに、なぜか美優との間に見えない距離が広がった気がした。
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