壁の中の彼氏
 まるで泣いているようにも聞こえてきて亜美の胸が締め付けられる。
「そうだね、言ったよ」
 亜美は何度も頷いてみせる。
 相手には見えていないとわかっていたけれど、そうしたくてやった。
「その名前も聞いたことがあると思った。絶対に自分に関係ある名前だって」
「そう……それで、なにか思い出したの?」
 しばらくの沈黙が落ちてきた。
 男は思案しているのか、時折深いため息が聞こえてくる。
「思い出した。飯島明人は、俺の名前だ……」

☆☆☆

 最初に思い出したのは両親の葬儀の記憶だった。
 ふたりの遺影が脳裏に浮かんできて、それが自分の両親だと気がついた。
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