【完結】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私
プロローグ
 ドンドンドンドン、ドンドンドンドン――
 勢いよく扉を叩く音で、リネットは目が覚めた。まだ頭はぼんやりとし、瞼も重くて半分しか開かない。
 それでも身体を起こし、よろよろと扉を開けると、そこには魔法師長のブリタが立っていた。濃紺のローブを羽織り、威厳あるたたずまいでリネットを見下ろすブリタと、目が合った。
「おはようございます、師長……。こんな朝早くから、どんなご用ですか……?」
 あくびまじりに挨拶をしたリネットに、ブリタは細めた目で鋭い視線を投げかけた。
「おはようでも、朝早くでもないよ。いったい、何時だと思っているんだい。もう昼過ぎだよ。患者が来たんだ。リネット、あれはあんたでなければ対応できない患者だ」
 ブリタは六十歳を過ぎたと聞いているが、三十代にしか見えない美貌の持ち主だ。濃い色の髪は魔力を持つ者の象徴ともされており、背中に流れるそのチョコレート色の髪はまるで絹のように艶やかである。かつてはブリタの治療を求めて、魔法院に男性たちが列をなした時期もあったという。
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