【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

30 お飾りの妻の私と、憧れのブラクトンホール

『バイオリン王子と白ウサギのコンサート』は芸術大賞、新人賞受賞のふれこみもあって、ブラクトンホールでのコンサートは日程3日分、全日完売。
 追加公演で2日間延長され、今日はその最終日だ。

 観客席の中央には貴賓席があり、そこには国王陛下、王妃殿下、王太子殿下のご臨席があった。そしてあのクレバー夫人の発表会で演奏されていた王女様は筆頭侯爵家に降嫁され、その5歳と7歳になる二人のお子様と一緒にお越し頂いていた。

 私はいつもよりもふわふわなドレスを着て、ウサギマスクに髪にはウサギ耳までつけてピアノを弾いた。
 私の後ろにはクマ、イヌ、ウマのマスクをかぶった3人のバイオリニスト、チェリスト、ヴィオリストが控え、掛け合いの演奏も私とハリー様を交えて5人になれば非常に賑やかだ。観客から歓声や笑い声、拍手が起こり、その一体感でホール全体が一つの楽器になったかのようだった。

 最後には我が国の国歌を奏でながら、観客たちに斉唱を促すと最高潮の盛り上がりをみせ、コンサートは無事終了した。

 私は心の底から音楽を楽しみ、興奮し、酔いしれた。

 この幸せな時間を一生忘れることはないだろう。



 次の日の新聞に、このコンサートの事が記事になった。
 ご臨席頂いた国王陛下が、国歌斉唱を殊のほか喜ばれ、声明を出されたからだ。

「何だよ! この記事は!」

 ハリー様が、新聞を床に叩きつけた。

『新感覚のピアノコンサートに絶賛の嵐』
『計算されたパフォーマンス! これを「おふざけ」と言うなかれ』
『超絶技巧のピアニストが観客の心を掴む』
『ウサギのピアニストの正体は!?』

「私のことが何も載っていないじゃないか!」

 薄々この結果は予想できた。
 クリス様は私にもう音を抑えろと言わなくなったし、練習をしないハリー様に代わってピアノパートが8割方を占めていた。

「お前、騙しやがったな!」

 ハリー様がクリス様の胸倉をつかむ。

「ブラクトンホールでは、今までのプログラムでは通用しないと申し上げたはずです。新曲や難曲も取り入れましたし、パフォーマンスも増やし構成も変えました。その練習を嫌がったのはハリー様です。ですから仕方なくピアノパートを増やすしかなかったんです」

「だからって……! こんなの騙しじゃないか! それにこの手紙の束は何だ!」

「ウサギへの……オリヴィア様への出演オファーです」

「バイオリンの巨匠ラムダに、キングストンオーケストラ、『レコード』への録音依頼に、隣国からのコンサート依頼……王女様のサロンへの誘いだと!?」

 錚々たる名前の羅列にびっくりする。

「こんなこと許さないからな! お前は私の妻だ! 夫に従え!」

 そう吐き捨ててハリー様は出て行った。
 彼は次期公爵で社交界の有名人だ。そんな人を怒らせてしまって大丈夫なのかと、クリス様を見上げる。

「大丈夫です。必ず貴女を解放して差し上げます」

 クリス様はそう言い、疲れているだろうと部屋まで送ってくれた。
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