【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
50 ハワード子爵令息、クリスの過去⑨
例え側にいれなくても、貴女を救いたい。
いつも無表情な貴女。
一度でいい……オリヴィア、貴女の笑顔が見たい。
だって私は……
私は……
そう、この気持ちの名前を、私はすでに知っている。
「私は貴女を愛しているんです」
そうだ。そうなんだ。
私はオリヴィアを愛していたんだ。ずっと前から……
ハリーがジェニーに愛を乞うその姿をバカにしていたが、今ならその気持ちが分かる。
私の言葉に怯んだすきにオリヴィアに抱き着き、手すりから遠ざけて、臆面もなく懇願する。
どうか、どうか、私のこの思いを知って欲しい。
「死なないで下さい。お願いだ…お願い…愛しているんです」
自分が情けなくて、でも腕の中の彼女の暖かさが、生きていることが嬉しくて、涙がこぼれる。
そうしてしばらく彼女を離すことができなかった。
早朝、辻馬車を呼び、キャンベル公爵の領地まで彼女と共に向かった。
とにかくオリヴィアを救うのだ。
後はもう、どうなったっていい。
昼すぎに公爵領に到着した。
業務のほとんどを私が行っているので、老公爵は領地の城に半隠居している。
だが、公爵の称号を持っている以上、キャンベル家の実質的な決定権はまだこの方にある。
先ぶれもなく訪れた私たちに老公爵は驚いていたが、面会して頂けることができた。
指の骨折をしてから、ろくに眠れていないオリヴィアは顔色が悪く、先に部屋で休んでもらうことにし、私一人で公爵のもとに行った。
「どうしたのかね」
私は地面に膝をつき、頭を下げた。
「どうかオリヴィア様をお助け下さい」
オリヴィアが指を潰された経緯を老公爵に話し、医者から告げられたその骨折の状態も説明する
「公爵様でしたら、彼女の治療できる名医をご存じでしょう。どうか、オリヴィア様の指を直して差し上げて下さい! あの才能を失わせるのは世界の損失です! 音楽に造詣深く、何人ものパトロンも務められている公爵様ならお分かりでしょう」
「ふむ…まぁ隣国にな、心あたりはあるが…」
「あとハリー様との離縁をお認め下さい! ハリー様がジェニー嬢と別れない限り、オリヴィア様にまた危害を加えるかもしれません」
「……あの平民女と別れさせれば、よいのではないか?」
「ハリー様は、オリヴィア様を利用することしか考えていません! このままでは彼女の才能は食い物にされ、世に出ることはできません。大音楽家の才能が潰されるなんて、あっていいのでしょうか」
「……」
「公爵様も彼女の生い立ちをお調べになったのでしょう? ずっと他人に搾取される人生を彼女に送らせるのですか? どうか彼女を少しでも哀れと思われるのでしたら、彼女に自由を! その才能を発揮させる場所に、連れていってやって下さい」
精一杯の懇願を声に乗せて、ひたすら地面に額をこすりつける。
「ふむ」と老公爵は息を吐き、思案をしているのか沈黙が続く。
いつも無表情な貴女。
一度でいい……オリヴィア、貴女の笑顔が見たい。
だって私は……
私は……
そう、この気持ちの名前を、私はすでに知っている。
「私は貴女を愛しているんです」
そうだ。そうなんだ。
私はオリヴィアを愛していたんだ。ずっと前から……
ハリーがジェニーに愛を乞うその姿をバカにしていたが、今ならその気持ちが分かる。
私の言葉に怯んだすきにオリヴィアに抱き着き、手すりから遠ざけて、臆面もなく懇願する。
どうか、どうか、私のこの思いを知って欲しい。
「死なないで下さい。お願いだ…お願い…愛しているんです」
自分が情けなくて、でも腕の中の彼女の暖かさが、生きていることが嬉しくて、涙がこぼれる。
そうしてしばらく彼女を離すことができなかった。
早朝、辻馬車を呼び、キャンベル公爵の領地まで彼女と共に向かった。
とにかくオリヴィアを救うのだ。
後はもう、どうなったっていい。
昼すぎに公爵領に到着した。
業務のほとんどを私が行っているので、老公爵は領地の城に半隠居している。
だが、公爵の称号を持っている以上、キャンベル家の実質的な決定権はまだこの方にある。
先ぶれもなく訪れた私たちに老公爵は驚いていたが、面会して頂けることができた。
指の骨折をしてから、ろくに眠れていないオリヴィアは顔色が悪く、先に部屋で休んでもらうことにし、私一人で公爵のもとに行った。
「どうしたのかね」
私は地面に膝をつき、頭を下げた。
「どうかオリヴィア様をお助け下さい」
オリヴィアが指を潰された経緯を老公爵に話し、医者から告げられたその骨折の状態も説明する
「公爵様でしたら、彼女の治療できる名医をご存じでしょう。どうか、オリヴィア様の指を直して差し上げて下さい! あの才能を失わせるのは世界の損失です! 音楽に造詣深く、何人ものパトロンも務められている公爵様ならお分かりでしょう」
「ふむ…まぁ隣国にな、心あたりはあるが…」
「あとハリー様との離縁をお認め下さい! ハリー様がジェニー嬢と別れない限り、オリヴィア様にまた危害を加えるかもしれません」
「……あの平民女と別れさせれば、よいのではないか?」
「ハリー様は、オリヴィア様を利用することしか考えていません! このままでは彼女の才能は食い物にされ、世に出ることはできません。大音楽家の才能が潰されるなんて、あっていいのでしょうか」
「……」
「公爵様も彼女の生い立ちをお調べになったのでしょう? ずっと他人に搾取される人生を彼女に送らせるのですか? どうか彼女を少しでも哀れと思われるのでしたら、彼女に自由を! その才能を発揮させる場所に、連れていってやって下さい」
精一杯の懇願を声に乗せて、ひたすら地面に額をこすりつける。
「ふむ」と老公爵は息を吐き、思案をしているのか沈黙が続く。