【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

【愛読御礼番外編】公爵令嬢シャーロットの結婚④

「え? お母さまがピアノを辞めるってどうして……」

「母親としてのシャーロットの信頼を失った。見限られてしまったと……自分は母親に愛されていなかったから、どう対応して今後どう償えばいいか分からない。とりあえず、コンサートに行くのをやめてシャーロットの側にいたい。でも上手くやれる自信がないから助けて欲しいって……その言葉を聞いて俺も同類だと思った。仕事にかまけて、お前をほったらかしにして……アーサーは俺に似て、そういう情緒は欠落しているからすっかり見逃していた」

 脇から銀髪の天使が顔を出す。
「僕を父上と同類にしないで下さい。情緒が欠落しているのは父上だけで、僕は早々に期待するのをあきらめただけです」

「……すまん」

「姉上は父上や母上に今まで期待していたんですよ。有難いと思わないと」

「…うん、ごめんシャーロット…」

「わたくしが何を期待していたと? ばかばかしい!」
 何それ? 私が子どもみたいに両親に構って貰いたがっていたとでも?
 あまりの侮辱に顔が紅潮し、言い返そうとすると……

「シャーロット、我が家で君だけなんだよ。当たり前の感性を持ってるのは……俺らはきっとちょっと欠落している」

「え?」

「ごめんね。俺らは夢中になると周りが見えなくなるんだ。特に私は独りよがりで、勝手に暴走して周りにいる人を傷つけてしまう……君に……寂しい思いもさせて、親として信頼関係を築く時間を取らずにいて本当にごめん。今さらだと思うけど君の話しを聞きたいし、君の側にいたい」

「……」

「シャーロットも今回の船旅に行きたかったんだよね? アーサーだけ連れて行ってごめん。でも、男ばかりの船旅だし転覆の危険もあるからそんな危険な旅に連れていくなんてありえない! しかも水が貴重だから身体も拭けないような不潔な旅になるんだよ? 『黒曜石の姫君』を連れて行ける訳がないじゃないか!」

「黒曜石の姫君?」
 何よその恥ずかしい通り名は……

「知らないの? シャーロットの事だよ。デビュー前なのに、社交界では君の美貌は評判でそう呼ばれてるのに」

「姉上はこの銀髪を羨ましがってますけど、この前初めて会ったド失礼な令嬢に『将来ハゲそうね』なんて言われたんですよ」

「ぶっ! くっくくく…あはははは」
 天使のような容姿のアーサーの禿げた姿を想像して、思わず吹き出してしまう。

「笑いごとじゃないです! 母上の父上のアースキン男爵は今やツルッパゲですからね!その予言的暴言は侮れないです!」

「だから海外に強力な毛生え薬がないか今から探しているんです」と真剣な表情でブツブツとつぶやいているアーサーがかわいい。


「姉上の自己評価の低さは母上譲りですね。『黒曜石の姫君』やら『黒薔薇』とか言われて憧れられているのに……父上の溺愛の評判もあって幼少から求婚が殺到したそうですよ? あまりに煩わしいから、エドガー様をさっさと婚約者に据えたくらい…」

「さっさと…据えた」
あぁそうか。なんだか納得した。

「こらアーサー! そんな言い方シャーロットが誤解するだろう! この婚約は……」



 そうか。
 そうだったんだ。

 さっさと据えられた婚約者。
 お父さまの要望で一時的に据えられた婚約者だったんだ。

「だったらあの態度も納得ね」

 暖かなブラウンの瞳、すらっとした体躯に優しい笑顔。いまだに後輩にも人気な憧れの卒業生。
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