【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

【愛読御礼番外編】公爵令嬢シャーロットの結婚③

次の日の夕食。
 どうせ一人だし、食事は部屋に持ってくるようにメイドに指示をすると、なんだか廊下が騒がしい。

「奥様! 私が運びますので」

「いいのよ。私が持っていきたいの」

「でも……」

 食事が乗ったワゴンを押すのは銀色の女神。

「何をされているの? お母さま」

「あの…食事を持ってきたの。一緒に食べたくて…」

「使用人を困らせてはいけませんわ。お母さまは中へどうぞ。エリー、食事を運んでちょうだい」

「は、はい!」

 私の専属メイドのエリーが安堵の表情で、ワゴンから食事をテーブルに並べてくれた。
 お母さまは気まずそうにソファーに腰かけ、料理を前にして黙っている。

「冷めますわ。早く頂きましょう」

「え、ええ」

 私をチラチラ伺いながら少しづつ口に運ぶお母さま。
 私は育ちざかりよ。パクパクと食べ進める。
 食べ終え、お茶とデザートの段になってようやくお母さまと目を合わせた。

「まだ屋敷におられたのね?」

「……」

「いつもなら昼には『春の庭』の屋敷にお戻りでしょう?」

「……私が戻るのは…帰るのは、この屋敷だわ」

「……」

 1年のうち四分の一はコンサートツアー、残りの半分は、お父さまと『春の庭』の屋敷でお過ごしになる。
 そのあとの残りの半分もこの屋敷で寝起きはしても、昼間は『春の庭』の屋敷にピアノを弾きに行って6時間は帰って来ない。

「今日、婚約者のサーンジュ伯爵令息が来られていたわよね? 彼が一人でテラスにおられたのが気になって…」

 あの男、あの後帰らずにテラスでずーっとお母さまを見ていたのかしら。気持ちわる。

「あの……あのね……貴女、サーンジュ伯爵令息と…その…上手くいっていないのかしら」

 14才になった私は『お母さまのせいで上手くいってないの』なんて言わない。

「さぁ……どうでしょう」

「何か困ったことはない? 私に相談を…」

「大丈夫ですわ。お母さまのお手を煩わせるようなことはありません」
 偉大なる大音楽家にそんな時間があるのなら、人々にもっとそのピアノを聴かせるべきだ。

「シャーロット…」

「来月からはブリテン国でコンサートでしたっけ?」

「……違うわ。国内で『ウサギのコンサート』ツアーよ」

 昔はお母さまが外国に行った土産話が楽しみで、コンサートスケジュールを把握していたわね。

「あら、失礼いたしました」

「だから、この屋敷から会場に通うわ。しばらくここにいるわ」

「まぁ、そうですの」

「……シャーロット…」

 どうしてお母さまは悲しそうな顔をするのかしら、私は微笑んでいるのに。




 その1週間後、お父さまとアーサーが突然帰ってきた。

「あら? ご帰国は2カ月後だとお聞きしましたけど、どうされたの?」

「……シャーロット」

 何故かお父さまに抱きしめられた。

「な…なんですの?」

「お前は最後のSOSを出していたのに、私は見逃していたんだな」

「え? 何が?」

「すまない。お前がしっかり者だからついつい甘えていた。まだ14才なのに……」

「なんですの? 急に」

「オリヴィアがピアノを辞めると電報をよこしてきた」
< 66 / 76 >

この作品をシェア

pagetop