【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
【愛読御礼番外編】公爵令息アーサーの憂鬱⑥
「殿下」
アンは夜着にガウンを羽織った姿で、下半身には布団をかけ、ベッドボードにもたれていた。
僕は両ひざをつき、頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
「あぁああ~やめてよ、アーサー! 私は謝罪なんて求めていないのよ? だって……本当の事だし」
「あれは……あれは八つ当たりだったんです! 王女殿下を辱めるつもりは…」
「もういいの。それよりひどい顔ね。痛そう…大丈夫?」
「……はい殿下」
「…小さな頃のようにアンって呼んでくれないの?」
「……」
「私がこんななりになってからよね? アーサーがアンじゃなくて殿下って呼ぶようになったのは」
「……そうですね」
「敬語もやめない? 廊下に控える侍女以外誰もいないわ」
「はい……うん。…そうだな…殿下呼びになったのはいつからかな? 覚えてないけど、そういえばその頃かも……多分、あまりに容姿が変わって別人扱いにしちゃったのかな。自分でもよく分からないや」
「そりゃそうよね。私だってびっくりしたもの。今まで着ていた服が全て着れなくなって、顔も2倍くらいに膨れ上がって……」
「ごめん! 辛かったよね? 今は体調はどうなの?」
「小さい頃よりはだいぶ良くなったの。薬さえ飲んでいれば……」
王太子妃殿下の説明によると、アンは2年ほど前、ある臓器が機能不全になる病気になったそうだ。
薬を飲めば命に別状はないのだが、その薬には大きな副作用があった。
それは『むくみ』だ。
身体から水分を適切に排出できず、それが身体に蓄積されてしまう。
つまり、アンの身体を大きくしているのは脂肪ではなく、水分なのだ。
「お母さまから病気のことは全て聞いたのよね?」
そして、この薬の副作用はもう一つある。
女性の場合は不妊だ。
「私は子どもが作れないかもしれない。キャンベル公爵家の後継者のアーサーのお嫁さんには本当は相応しくないの。だから、せめて頭が良ければ公爵家に貢献できるかと思ったの。だって、むくんだ身体が重いからよく体調を崩すし……私がベッドでできる事って勉強くらいしかなかったから。でもそれも2才年下のアーサーにはあっさり抜かれたちゃうし、2位キープも出来ないし……」
アンの瞳から涙がこぼれ始める。
そんなの見たくない!
「そんなの当たり前だろ? 天才の僕に勝てるわけないじゃないか!」
「ふふっそうね。当たり前よね~」
垂れ目の瞳が寂しげに細められる。
そんな全てを諦めたような顔するな。
「アーサー。婚約破棄しましょう。子の産めない私は公爵夫人にはなれないわ」
「……子なんていらない」
「え?」
「子どもなんていらないって言ってるんだ! 子どもの僕らが何の話しをしてるんだよ! 後継者なんて養子を取ればいいんだ。父上だって養子なんだから! 姉上の子を養子に貰えばいい。あの顔はきっとバンバン子を産むはずだ!」
「ふふふっ、シャーロット様のお子を? それは素敵だけど……それより、私はいつ薬がやめられるか分からないのよ? もしかしたら一生、この太った容姿のままかもしれないのよ? そんな妻、イヤでしょう」
「大丈夫だ! 容姿が良い僕がいるから、君はそのままでいいんだ」
「そうなの? ふふっ……そうね、貴方は天使の顔を持つ天才少年ですもんね」
「但し恐ろしい予言もあるんだ。僕は将来、ハゲるかもしれない。そこは大目に見ろ」
「あははははは」
このアンの笑顔はいい。
「正直、アンのことを僕自身どう思っているか自分でも分からない。ただ病気と闘い、その姿を厭っているにも関わらず、中傷を受けながらも堂々と茶会に出て、そして学院にも通う姿は尊敬に値する。真摯に学習する姿勢も好ましいと思っている」
「ううううっ」
アンが急に泣き出した。
アンは夜着にガウンを羽織った姿で、下半身には布団をかけ、ベッドボードにもたれていた。
僕は両ひざをつき、頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
「あぁああ~やめてよ、アーサー! 私は謝罪なんて求めていないのよ? だって……本当の事だし」
「あれは……あれは八つ当たりだったんです! 王女殿下を辱めるつもりは…」
「もういいの。それよりひどい顔ね。痛そう…大丈夫?」
「……はい殿下」
「…小さな頃のようにアンって呼んでくれないの?」
「……」
「私がこんななりになってからよね? アーサーがアンじゃなくて殿下って呼ぶようになったのは」
「……そうですね」
「敬語もやめない? 廊下に控える侍女以外誰もいないわ」
「はい……うん。…そうだな…殿下呼びになったのはいつからかな? 覚えてないけど、そういえばその頃かも……多分、あまりに容姿が変わって別人扱いにしちゃったのかな。自分でもよく分からないや」
「そりゃそうよね。私だってびっくりしたもの。今まで着ていた服が全て着れなくなって、顔も2倍くらいに膨れ上がって……」
「ごめん! 辛かったよね? 今は体調はどうなの?」
「小さい頃よりはだいぶ良くなったの。薬さえ飲んでいれば……」
王太子妃殿下の説明によると、アンは2年ほど前、ある臓器が機能不全になる病気になったそうだ。
薬を飲めば命に別状はないのだが、その薬には大きな副作用があった。
それは『むくみ』だ。
身体から水分を適切に排出できず、それが身体に蓄積されてしまう。
つまり、アンの身体を大きくしているのは脂肪ではなく、水分なのだ。
「お母さまから病気のことは全て聞いたのよね?」
そして、この薬の副作用はもう一つある。
女性の場合は不妊だ。
「私は子どもが作れないかもしれない。キャンベル公爵家の後継者のアーサーのお嫁さんには本当は相応しくないの。だから、せめて頭が良ければ公爵家に貢献できるかと思ったの。だって、むくんだ身体が重いからよく体調を崩すし……私がベッドでできる事って勉強くらいしかなかったから。でもそれも2才年下のアーサーにはあっさり抜かれたちゃうし、2位キープも出来ないし……」
アンの瞳から涙がこぼれ始める。
そんなの見たくない!
「そんなの当たり前だろ? 天才の僕に勝てるわけないじゃないか!」
「ふふっそうね。当たり前よね~」
垂れ目の瞳が寂しげに細められる。
そんな全てを諦めたような顔するな。
「アーサー。婚約破棄しましょう。子の産めない私は公爵夫人にはなれないわ」
「……子なんていらない」
「え?」
「子どもなんていらないって言ってるんだ! 子どもの僕らが何の話しをしてるんだよ! 後継者なんて養子を取ればいいんだ。父上だって養子なんだから! 姉上の子を養子に貰えばいい。あの顔はきっとバンバン子を産むはずだ!」
「ふふふっ、シャーロット様のお子を? それは素敵だけど……それより、私はいつ薬がやめられるか分からないのよ? もしかしたら一生、この太った容姿のままかもしれないのよ? そんな妻、イヤでしょう」
「大丈夫だ! 容姿が良い僕がいるから、君はそのままでいいんだ」
「そうなの? ふふっ……そうね、貴方は天使の顔を持つ天才少年ですもんね」
「但し恐ろしい予言もあるんだ。僕は将来、ハゲるかもしれない。そこは大目に見ろ」
「あははははは」
このアンの笑顔はいい。
「正直、アンのことを僕自身どう思っているか自分でも分からない。ただ病気と闘い、その姿を厭っているにも関わらず、中傷を受けながらも堂々と茶会に出て、そして学院にも通う姿は尊敬に値する。真摯に学習する姿勢も好ましいと思っている」
「ううううっ」
アンが急に泣き出した。