【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
09 子どもの私と、ピアノとの出会い
ゆっくりと音の鳴る家具に近づく。
おそるおそる白い板を指でたたくと……
ポーン
なんてきれいな音!
その隣の白い板もたたいてみる。
ポーン
あぁ違う音になるのね。
どんどん他の板も叩いてみる。
あぁ、こんな風に音が繋がっているんだ。
目の前には何やら黒い丸と線で書かれた本がある。これを見てミュリエル様は音を鳴らしていたけど、これにどれを叩くか書いてあるのかも……全然分からないけれど。
「ふうう」深呼吸して、さっき鳴っていた音を思い出す。
頭の中の音と同じ音が鳴る板を、見つけ出してたたく。
一通り音の流れを確認できたら、想像を膨らませてみる。
この音の流れは『春の庭』って言ってた。
確かにぴったりの音の集まりだわ。
始めはゆっくりと、穏やかな光を感じるそんな感じで……
揺れる木にそれを受けて形を変える優しい光のダンス、花が喜んでる……蝶々やミツバチがおいかけっこしているわ。なんて楽しそうなの。あぁ美しいお庭の春の景色、なんて幸せな世界なんだろう。
河川敷での想像そのままに、白と黒をたたく指にもその気持ちをこめる。
そうしていると、大きな音をたてて大人が飛び込んできた。クレバー夫人だ。
「ピアノを弾いていたのはあなた?」
血走った目で叫ぶ姿に、失敗しちゃったな、どれぐらい殴られるのかなとぼんやり考える。
「貴女、メイドね?」
私はメイド用の紺色のお仕着せのワンピースを着ている。
「ピアノは習った事はあるの? この曲、『春の庭』を弾いたことがあるの?」
ゆっくり首をふる。
「譜面は読めるの?」
譜面ってなんだろうと首をかしげると
「聞いただけで、弾けるのね! あぁなんて事!」
遅れてマティルダ様とミュリエル様が音楽室に入ってくる。
「クレバー夫人どうされて……」
「アースキン伯爵夫人! この子は絶対音感をもっているわ! そしてこの豊かな表現力! 聞いただけでここまで弾けるなんて……的確な指導をすれば、大音楽家(ヴィルトゥオーソ)になれるかもしれない逸材よ!」
「その娘は使用人で……」
「あぁ! この子を私に預からせて下さらない? この才能を捨て置くなんて神への冒涜だわ!」
「……この娘は卑しい娼婦の子でうちの使用人です。そしてこの屋敷の使用人は、全てわたくしの財産ですわ。いくらクレバー夫人の申し出でも……」
「それでしたら、ミュリエル様と一緒にこの子を教示するのを許してもらえないかしら」
「それは……」
「さきほどのお話は撤回しますわ。ミュリエル様のレッスンも続けるかわりに、この子にもピアノを教える許可を頂きたいの」
「……」
「王女様も参加される私が主催する発表会に、参加されたいんでしょう? レッスンを受けている方全員にご参加頂いているのよ」
「……分かりました」
ギッと伯爵夫人が私をにらみつける。
今日は何時に寝れるのだろうかと、小さなため息をはいた。
「いまいましい! 何が大音楽家よ!? こんなボロ雑巾みたいな小娘!」
手や腕はクレバー夫人に見つかるからと、身体をほうきの柄で殴られるようになった。きつく叩かれた日は2週間くらいお腹の横が痛くて、息をするのも辛かった。
でも週に1度の「ピアノのレッスン」は夢のような時間だった。
クレバー夫人は私に「譜面」の見方も教えてくれたし、「春の庭」以外の譜面も何枚かくれた。
私はピアノに夢中になった。
おそるおそる白い板を指でたたくと……
ポーン
なんてきれいな音!
その隣の白い板もたたいてみる。
ポーン
あぁ違う音になるのね。
どんどん他の板も叩いてみる。
あぁ、こんな風に音が繋がっているんだ。
目の前には何やら黒い丸と線で書かれた本がある。これを見てミュリエル様は音を鳴らしていたけど、これにどれを叩くか書いてあるのかも……全然分からないけれど。
「ふうう」深呼吸して、さっき鳴っていた音を思い出す。
頭の中の音と同じ音が鳴る板を、見つけ出してたたく。
一通り音の流れを確認できたら、想像を膨らませてみる。
この音の流れは『春の庭』って言ってた。
確かにぴったりの音の集まりだわ。
始めはゆっくりと、穏やかな光を感じるそんな感じで……
揺れる木にそれを受けて形を変える優しい光のダンス、花が喜んでる……蝶々やミツバチがおいかけっこしているわ。なんて楽しそうなの。あぁ美しいお庭の春の景色、なんて幸せな世界なんだろう。
河川敷での想像そのままに、白と黒をたたく指にもその気持ちをこめる。
そうしていると、大きな音をたてて大人が飛び込んできた。クレバー夫人だ。
「ピアノを弾いていたのはあなた?」
血走った目で叫ぶ姿に、失敗しちゃったな、どれぐらい殴られるのかなとぼんやり考える。
「貴女、メイドね?」
私はメイド用の紺色のお仕着せのワンピースを着ている。
「ピアノは習った事はあるの? この曲、『春の庭』を弾いたことがあるの?」
ゆっくり首をふる。
「譜面は読めるの?」
譜面ってなんだろうと首をかしげると
「聞いただけで、弾けるのね! あぁなんて事!」
遅れてマティルダ様とミュリエル様が音楽室に入ってくる。
「クレバー夫人どうされて……」
「アースキン伯爵夫人! この子は絶対音感をもっているわ! そしてこの豊かな表現力! 聞いただけでここまで弾けるなんて……的確な指導をすれば、大音楽家(ヴィルトゥオーソ)になれるかもしれない逸材よ!」
「その娘は使用人で……」
「あぁ! この子を私に預からせて下さらない? この才能を捨て置くなんて神への冒涜だわ!」
「……この娘は卑しい娼婦の子でうちの使用人です。そしてこの屋敷の使用人は、全てわたくしの財産ですわ。いくらクレバー夫人の申し出でも……」
「それでしたら、ミュリエル様と一緒にこの子を教示するのを許してもらえないかしら」
「それは……」
「さきほどのお話は撤回しますわ。ミュリエル様のレッスンも続けるかわりに、この子にもピアノを教える許可を頂きたいの」
「……」
「王女様も参加される私が主催する発表会に、参加されたいんでしょう? レッスンを受けている方全員にご参加頂いているのよ」
「……分かりました」
ギッと伯爵夫人が私をにらみつける。
今日は何時に寝れるのだろうかと、小さなため息をはいた。
「いまいましい! 何が大音楽家よ!? こんなボロ雑巾みたいな小娘!」
手や腕はクレバー夫人に見つかるからと、身体をほうきの柄で殴られるようになった。きつく叩かれた日は2週間くらいお腹の横が痛くて、息をするのも辛かった。
でも週に1度の「ピアノのレッスン」は夢のような時間だった。
クレバー夫人は私に「譜面」の見方も教えてくれたし、「春の庭」以外の譜面も何枚かくれた。
私はピアノに夢中になった。