義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
律はモデル業の傍ら、動画配信もしている。主にファッションやダイエット、美容の話題が多く、私も時々のぞくことがある。女の私よりずっと真面目にスキンケアをしていて、見ていると悔しくなるくらいだ。
静かにしててねとは言われたけれど、夜にはどうせ私と律しか残っていない。内村さんは夕方には帰ってしまうし、お父様は毎晩遅くまで仕事なのだ。
玄関へ向かいかけた律が、ドアノブに手をかけたところで、思い出したように足を止めた。
「あ、忘れてた」
振り返りながら、上着のポケットを探る。
小さな音を立てて何かが引き出された。
「これ、持ってて」
手に持たされたのは、緑色の小さな石の飾りがついたストラップだった。
そしてもう一つ──見覚えのある銀色のリングが付いていた。
内側に、〝N to A〟の刻印。間違いない、彰人さんの指輪だ。
もう、見つからないと思っていたのに。
耳の奥が、キーンと鳴った気がした。
「どうして……」
「姉さん、兄さんの最期、見てないでしょ? だから、俺が預かってた」
壊さないように優しく両手で包む。
お礼を言いたいのに胸がいっぱいで、声が出ない。
「お守り代わりに持ってて。デザインも悪くないでしょ?」
「律が作ってくれたの?」
「……うん」
「……ありがとう……」
ようやく、お礼の言葉を絞り出せた。
「じゃ、行ってくる」
律は満足そうに笑うと、ダイニングをあとにした。
私もカップに残ったコーヒーを一口飲み、スーツの上着を羽織る。
そして、ストラップを鞄の金具に取り付けた。小さなアクセサリーだけれど、手にするだけで、彰人さんと律の存在がそばにあるように感じられた。
今日は月曜。御影法律事務所は週明けから立て込みそうだ。
だけど今の自分には、少しくらい忙しい方が都合がいい。
「菜月さんも、お気をつけていってらっしゃいませ」
玄関まで見送りに来た内村さんが、変わらない穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
「いってきます」
扉を開けて外に出たとき、朝の風が、どこか懐かしい香りを運んできた気がした。
それは、いつか彰人さんと並んで歩いた朝の匂いと、少し似ていた。
静かにしててねとは言われたけれど、夜にはどうせ私と律しか残っていない。内村さんは夕方には帰ってしまうし、お父様は毎晩遅くまで仕事なのだ。
玄関へ向かいかけた律が、ドアノブに手をかけたところで、思い出したように足を止めた。
「あ、忘れてた」
振り返りながら、上着のポケットを探る。
小さな音を立てて何かが引き出された。
「これ、持ってて」
手に持たされたのは、緑色の小さな石の飾りがついたストラップだった。
そしてもう一つ──見覚えのある銀色のリングが付いていた。
内側に、〝N to A〟の刻印。間違いない、彰人さんの指輪だ。
もう、見つからないと思っていたのに。
耳の奥が、キーンと鳴った気がした。
「どうして……」
「姉さん、兄さんの最期、見てないでしょ? だから、俺が預かってた」
壊さないように優しく両手で包む。
お礼を言いたいのに胸がいっぱいで、声が出ない。
「お守り代わりに持ってて。デザインも悪くないでしょ?」
「律が作ってくれたの?」
「……うん」
「……ありがとう……」
ようやく、お礼の言葉を絞り出せた。
「じゃ、行ってくる」
律は満足そうに笑うと、ダイニングをあとにした。
私もカップに残ったコーヒーを一口飲み、スーツの上着を羽織る。
そして、ストラップを鞄の金具に取り付けた。小さなアクセサリーだけれど、手にするだけで、彰人さんと律の存在がそばにあるように感じられた。
今日は月曜。御影法律事務所は週明けから立て込みそうだ。
だけど今の自分には、少しくらい忙しい方が都合がいい。
「菜月さんも、お気をつけていってらっしゃいませ」
玄関まで見送りに来た内村さんが、変わらない穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
「いってきます」
扉を開けて外に出たとき、朝の風が、どこか懐かしい香りを運んできた気がした。
それは、いつか彰人さんと並んで歩いた朝の匂いと、少し似ていた。