義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 兄さんが病院に運ばれて、死亡を告げられた後のことだった。
 病院のスタッフが、言葉を選ぶように声をかけてきた。
 
「すみません、遺族の方ですか……?」

 遠慮がちに、こちらの顔色をうかがう視線だった。
 『遺族』という言葉が、重くのしかかる。
 先ほど、白い布を取った時もそうだったのに。
 それ以上に、もう後戻りできない場所に立たされた気がした。
 
「奥様がお話しできる状態ではなくて……。これを……」

 スタッフが布から取り出したのは、兄さんの結婚指輪だった。
 薄暗い照明の下で、鈍く光っている。
 これすらも受け取れないほど、姉さんは憔悴しきっているのか。

「……ありがとうございます」

 自分の声が、ひどく他人事のように聞こえた。
 俺は指輪を大切にハンカチに包んで、鞄にしまう。
 姉さんが落ち着いた頃に、渡してやろうと思った。
 

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