義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 茉莉乃から、いつもの電話がかかってきた。金の催促だ。
 兄さんが死んでから、連絡が増えた気がする。
 ストラップが壊れたこともあってイライラしていた俺は、いつもより口調が荒くなっていた。
 
「金の話は後にしろ。それより──」

 姉さんを狙ったのは、あんたじゃないだろうな?
 そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。証拠なんて、何ひとつない。
 ここで疑いを口にすれば、その矛先がどこへ向かうかわからない。
 しかし、茉莉乃は気にしていないようで、自分の話を続ける。
 
『ほんっとつれないわねぇ。彰人くんがいなくなったんだから、しょうがないでしょう?』

 電話越しの、艶を含んだ甘ったるい声が耳にまとわりつく。
 兄さんが死んだばかりだというのに──。
 胸の奥が、ぎゅっと潰れた。

「……兄さんの話はするな」

 声に出した途端、腹の底から冷たいものが込み上げてくる。
 押さえ込んでいた感情が、わずかに溢れた。

「お前の口から聞くと──反吐が出る」

 その時、背後で小さな物音が聞こえたような気がした。
 ──やば、姉さんに聞かれていたかな……?
 後でごまかしておかなきゃ……そうだな。
 姉さんの布団にでも潜り込んで、何もなかった顔をしていればいい。
 

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