義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 姉さんが録音データを見つけた。
「一緒に聞いてほしい」と、部屋までやってきた。
 姉さんが少し震えていたから、承諾した。
 けれど、この録音データには、兄さんの声が入っている。
 聞かなきゃいけないのはわかってる。
 でも、聞かせたくない。
 お願いだから姉さん、俺の方を見て。
 俺を、見て──。
  
 静かになった部屋で、俺は言った。

「……俺のお願いも、聞いてくれる?」

 姉さんは怒った。当然だと思う。
 でも俺の気持ちも、冗談じゃないんだ。
 距離を詰めていた。
 触れたら壊れるとわかっているのに、確かめずにはいられなかった。
 腕が伸びる。
 気づけば姉さんの上に覆い被さっていた。
 どこからか兄さんの声が聞こえた。
 邪魔、しないで。姉さんの目の前にいるのは、俺なんだから。
 息が混じる、その直前で──別の声が、割り込んだ。
 あの女の声。世界が、急に現実へ引き戻された。
 虫唾が走って、あの女も、自分自身も許せなかった。
 ──行かなきゃいけない。反射的に外に出ていた。
 そこから後は、無我夢中で。
 姉さんが来るまでのことは、あまり覚えていない。
 
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