義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 店を出た後、夜風に当たるとほんの少し酔いが回ってきた。
 ヒールのせいかお酒のせいか、足元がふらついて「あっ」と声が出そうになった。

「菜月さん!」

 保科さんの声と同時に、腕が伸びてくる。
 でも、その腕が私に届く寸前、別の力が私の肩をぐっと掴んだ。

「大丈夫? 姉さん」
「律……!」
「律くん!?」

 目の前にいたのは、紛れもなく義弟の律だった。でも、いつもの律ではなく、パーカーのフードを深くかぶり、伊達メガネをかけている。

「どうしてここに……? 配信があるって言ってたじゃない」
「配信はもう終わったよ。ジムに行こうとしたら、姉さんの姿が見えたから」

 あっけらかんとした声で、ビルの上を指差す。
 そこには、スポーツジムの看板が光っていた。
 私は思わず目を瞬く。

「保科さん、姉がお世話になっています。……でも、あとは俺と一緒に帰るので、大丈夫ですよ」

 私の肩に触れていた律の手の力が、ぐっと強くなった気がした。
 保科さんは一瞬だけ戸惑った顔をしたけれど、すぐに頷いた。

「あ、ああ……律くんが一緒なら安心だ」

 律の肩越しに見える保科さんの目が、何か言いたげに揺れた気がした。
 けれど、私はその意味を確かめる余裕もなく、律に支えられながら歩き出した。

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