義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 保科さんと別れるや否や、律は私の手をぐいっと取って、まるで逃げるように歩き出した。
 足早というより、半ば引っ張られるような勢いだ。

「ちょ、ちょっと待って律! 早いってば……!」

 小走りになりながら、やっと声をかけると、律は足を緩めずにぽつりと呟いた。

「姉さん、危機感なさすぎ」
「……は?」

 思わず立ち止まりそうになった。けれど、手を離してくれない律に引っ張られる形で、私はそのまま歩き続ける。

「なによそれ。保科さんとは、別にそんなんじゃないし」
「でもお酒、飲んだでしょ?」
「す、少しだけよ。ほんの一口……」

 律の背中越しに言い訳がましく呟くと、彼の歩みがぴたりと止まった。私はその背にぶつかりそうになって、あわてて足を止める。

「姉さん……自分が酒癖悪いの、わかってる?」

 ぴしゃりと言われ、言葉に詰まる。

 ……そう、私はお酒を飲むと、どうやら絡み上戸になるらしい。甘えた声で誰かに寄りかかったり、泣き上戸にもなったりするらしい──というのを、数年前に痛いほど思い知って以来、お酒はなるべく控えるようにしていた。

「わ、わかってるわよ……。だから少しだけにしたんじゃない……」

 精一杯の抗弁をしても、律の背中は拗ねた子どものように、わかりやすく怒っている。普段はどこか達観したようなところのある律が、こうして感情をむき出しにすることを、私は義姉として嬉しいと思っていた。けれど、気のせいかもしれないけど、彰人さんが亡くなってから律はなんとなく私に対して、過保護な気がする──。

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