義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
6・まだ、秘密
カーナビに入力して案内された場所は、居酒屋風の創作和食のお店だった。
個室に通され、改めて先生に日記を読んでもらう。店員の元気な声や、グラスで乾杯する音が、喧騒として店いっぱいに広がっている。騒がしくて話どころではないかもと思ったけれど、逆にこの喧騒が私たちの声をかき消してくれて、気兼ねなく込み入った話ができた。
料理を注文して待っている間、軽井沢さんはテーブルの上に日記を置く。
「……菜月ちゃんは、これを見てどう思った?」
「考えたくはないですが……。彰人さんは事故死ではなかったのかも、と……。彰人さんは、生前いつも言っていたんです。『弁護士という職業は、恨まれることもある』って……だけど……」
うつむき加減でテーブルの下、膝の上でぎゅっと手を握る。
「律が関与しているかも、なんて、考えたくないんです……。私、どうしたら……」
ようやく吐き出せた自分の気持ちに、涙腺がゆるむ。
言葉が途切れると、頭の上にふわりと何かが乗った。
軽井沢さんの、手のひらだった。
「菜月ちゃん。俺の考えを言おうか」
顔を上げると、彼は不安を包んでくれるように微笑んでいた。
「正直、警察が事故死って言ってるなら、放っておくのもひとつの手だと思う」
「……そう、ですか」
「でもな。もし菜月ちゃんの勘が当たってて、ほんとに事故じゃなかったとしたら──」
「なかったと、したら……?」
「面倒だよ。宝堂家ってだけで恨みを買うこともあるから」
「え……?」
耳を疑うような言葉に、心臓が、ドクンと一つ大きく鳴った。
「つまり、狙われてるのは彰人くんだけじゃないかもってこと」
私や律、それにお父様──宝堂家、全員が……?
背筋がぞわりとした。
なぜ、その可能性を今まで考えなかったのだろう。
宝堂グループは、世界中に名を知られる巨大企業。だからこそ、敵もまた──数え切れないほどいるのかもしれない。軽井沢さんの言うとおりだ。彰人さんと結婚して得た幸せに、私は甘えていた。見たくない現実から、意図的に目を逸らしていたのかもしれない。
「って、ごめんごめん! 怖がらせたかったわけじゃないんだ。でもまあ、用心するのに越したことはないと思うよ」
そう言いながら、軽井沢さんは両手をひらひらさせ、明るく振る舞ってくれた。
「でも、宝堂家全員が狙われているなら、この言葉の意味は……?」
日記の最後に書かれた、例の文言を見ながら、再び考える。
私はこれを見て、一瞬、律を疑ってしまった。けれど──
「……そうか。そうなると、意味は変わってくるな……。いや、俺はてっきり、律くんに菜月ちゃんを取られたくなくて『気をつけろ』って言ってるものとばかり」
「んぇっ!?」
変な声が出てしまった。
「……とすると、これはもしかして、次に狙われるのは律くんであることを示しているのか……? いや、でもな……」