義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
早めに家を出て、二人で宝堂ビルの前の歩道でストラップを探す。
この時間はまだ人がまばらで、出勤してくる人も少ない。
今日が天気のいい日で良かった。昨夜の水たまりは、すっかり乾いていた。
「俺、こっち探すから」
「うん」
律は、私から少し離れた場所までスタスタと歩いていった。
そんな遠くに行くほど飛んだとは思えないけれど……念のため、なのだろう。律は昔から、無駄なく動くことがある。
私は足元に目を落としながら、歩道の端をゆっくりと進む。
ビルと歩道の境目にある植え込みのそばに、何かが引っかかっているのが見えた。
(あっ……!)
きらりと光るのは、彰人さんの指輪だ。
「あった!」
「あったよ!」
同時に、少し離れた場所から律の声も重なった。
「えっ?」
私の手の中にあるのは、ストラップの本体と、彰人さんの指輪。
律が拾って持ってきたのは、緑色の石の部分だった。
どうやらここも取れてしまったらしい。
「ありがとう、律」
「壊れちゃったね。俺、直すよ」
律は親切心で言ってくれたのだろう。
でも、また壊れてどこかへ行ってしまったらと思うと、首を横に振っていた。
「いいよ、指輪も戻ってきたし。それに、また直させるの悪いし──」
「ダメだよ!」
思ったより強い声にびくっと肩が跳ねて、思わず顔を上げる。
いつも穏やかな律が、こんなふうに声を荒らげることはほとんどない。
どうしたんだろう。私、何か変なこと言った?
「あ、ごめん……」
律は一瞬、言葉に詰まったように視線を逸らした。
「これ、お守りだと思ってたからさ……。今度は切れないようにするから」
そこまで言うなら、と律にストラップを渡した。
鞄の中に入れるところを見届けると、律は鞄の肩紐をぎゅっと握った。
「……今度は……」
「……うん?」
聞き返した私の声に、律は応えなかった。
それにしても、律があんな大声出すなんて。
きっと心配してくれただけ。律は昔からそうだ。少し過剰なくらい、面倒見がいい。
それなのに、胸の奥に小さな棘みたいなものが引っかかる。
「どうしたの?」
顔を上げた律は、いつもの顔をしていた。
柔らかくて、穏やかで、私が知っている義弟の表情。
「ううん、なんでもない」
本当に、なんでもない。
そう言い聞かせて、私は律が仕事に向かう背中を見送った。
違和感は歩道の上にあった水たまりみたいに、もう消えているはずだった。
この時間はまだ人がまばらで、出勤してくる人も少ない。
今日が天気のいい日で良かった。昨夜の水たまりは、すっかり乾いていた。
「俺、こっち探すから」
「うん」
律は、私から少し離れた場所までスタスタと歩いていった。
そんな遠くに行くほど飛んだとは思えないけれど……念のため、なのだろう。律は昔から、無駄なく動くことがある。
私は足元に目を落としながら、歩道の端をゆっくりと進む。
ビルと歩道の境目にある植え込みのそばに、何かが引っかかっているのが見えた。
(あっ……!)
きらりと光るのは、彰人さんの指輪だ。
「あった!」
「あったよ!」
同時に、少し離れた場所から律の声も重なった。
「えっ?」
私の手の中にあるのは、ストラップの本体と、彰人さんの指輪。
律が拾って持ってきたのは、緑色の石の部分だった。
どうやらここも取れてしまったらしい。
「ありがとう、律」
「壊れちゃったね。俺、直すよ」
律は親切心で言ってくれたのだろう。
でも、また壊れてどこかへ行ってしまったらと思うと、首を横に振っていた。
「いいよ、指輪も戻ってきたし。それに、また直させるの悪いし──」
「ダメだよ!」
思ったより強い声にびくっと肩が跳ねて、思わず顔を上げる。
いつも穏やかな律が、こんなふうに声を荒らげることはほとんどない。
どうしたんだろう。私、何か変なこと言った?
「あ、ごめん……」
律は一瞬、言葉に詰まったように視線を逸らした。
「これ、お守りだと思ってたからさ……。今度は切れないようにするから」
そこまで言うなら、と律にストラップを渡した。
鞄の中に入れるところを見届けると、律は鞄の肩紐をぎゅっと握った。
「……今度は……」
「……うん?」
聞き返した私の声に、律は応えなかった。
それにしても、律があんな大声出すなんて。
きっと心配してくれただけ。律は昔からそうだ。少し過剰なくらい、面倒見がいい。
それなのに、胸の奥に小さな棘みたいなものが引っかかる。
「どうしたの?」
顔を上げた律は、いつもの顔をしていた。
柔らかくて、穏やかで、私が知っている義弟の表情。
「ううん、なんでもない」
本当に、なんでもない。
そう言い聞かせて、私は律が仕事に向かう背中を見送った。
違和感は歩道の上にあった水たまりみたいに、もう消えているはずだった。