義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
「いやぁ、姉さんの目を盗んで玄関の鍵を手に入れるのが大変だったよ」

 落としたのではない。
 すべて、律が計算して仕組んでいた。
 それを律は、まるで楽しかった出来事のように、笑顔で話す。
 
「そんなことまでして……。なんで合鍵を……」

 そういえば、日記を見つけたあの日、律は音もなく家に入ってきた。
 あの時は玄関の鍵を閉め忘れたのだと思っていたけど、合鍵を持っているから、いつでも入ってこれたんだ……。
 
「本当はね、いざという時以外、合鍵を使うつもりはなかったんだ。でも、兄さんが死んで、ちょっと思いついちゃってさ」
「思いついたって……なにを?」
「日記だよ」

 律は、まるで秘密を共有できることを嬉しがる子供のように笑った。

「兄さんが日記を書いていること、知ってたんだ。でも、なにを書いてるかまでは知らなくて。お葬式が終わった後に読んでみたら、震えたよ……姉さんのことばっかり書いてあるんだもん」

 淡々と話していたはずなのに、気づけば語尾に熱がこもっているように聞こえた。
 抑えが効かなくなっていく。
 
「ああ……兄さんは姉さんのこと本当に愛していたんだって、ゾクゾクした。こんなの読んだら、姉さんはまた兄さんのことを思い出して、兄さんのことでいっぱいになってしまう……! そう思ったんだ」

 悔しがるとか、寂しがるとか、そんな感情じゃない。
 まるで、胸をかき立てられる名画のワンシーンに酔いしれているかのような、熱のこもった言い方だった。
 
「だから、俺が最後に書き加えた」

 その一言を境に、律の温度がすっと下がった。
 部屋の空気までも冷え込んだように、しん……と静寂が落ちる。
 
「ねえ姉さん、あれを見てどう思った?」

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