義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 律の顔が、真っ直ぐに私を見つめていた。
 その視線に射抜かれるように、呼吸が乱れる。

「俺のこと……気になったでしょ? 気になって、気になって、気になってしょうがなかったでしょ?」

 無邪気な微笑みが、狂気に包まれている気がした。
 喉で言葉が詰まる。
 律はゆっくりと、私の目の前に跪いて手を取りそして──手の甲に口づけを落とす。
 
「大事なのは、姉さんの頭の中が俺でいっぱいになること。それだけだよ」
 
 反射的に手を引こうとしたのに、指先が強ばってうまく動いてくれなかった。
 震える手を引っ込めて、ようやく律を睨み返す。
 
「……犯人だって思われるかもしれない、とは考えなかったの?」
「犯人? だってあれは事故でしょ?」
「でもさっき、〝排除してきた〟って……!」

 私が言うと、律はぴたりと口を閉ざした。
 表情が抜け落ちたみたいに、すうっと無機質になる。
 
「……うん。兄さん以外を(・・・・・・)ね」
「え……?」

 それは、どういう意味……?
 律は、再び笑顔を向ける。
 
「俺はね、兄さんも姉さんも大好きなんだ。だから、二人が結婚した時、正直安心したんだ。ああ、これでもう、排除しなくて済むって」

 律の笑顔は天使のようだった。それなのに、背中のぞくりとした感覚が消えない。
 排除って、何を……? 誰を……?
 嫌だ、聞きたくない。だけど耳が勝手に律の声を追いかけてしまう。
 コルクボードの写真が視界に入る。さっきの男の人たちの×印が、やけに赤く見える。
 まさか──。
 ごくりと唾を飲み込み黙っていると、ふっ、と空気が変わった気がした。
 律の表情が、いつものように戻っていた。けれど、少しだけ寂しそうだ。
 
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