義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 早送りで流れる、何気ない廊下。
 人の姿が途切れ、また現れ、ただ時間だけが過ぎていく。

 ──けれど、何も見つからなかった。
 こめかみがじんと痛む。私は指先で軽く押さえて、小さく息を吐いた。

「姉さん、ちょっと休憩しよ」

 律が、私の顔色を見て声をかけてくれる。

「……そうね」

 再生を一旦止め、管理室の近くの自販機で律が飲み物を買ってきてくれた。
 少しだけ目を閉じて休憩すると、再び、彰人さんが非常口へ向かう映像をループ再生する。
 ペットボトルの蓋を開けている間も、水を飲んでいる間も。
 何度も、何度も、同じ後ろ姿が映し出される。
 小さく揺れる肩。歩幅のクセ。耳に当てられたスマホ。

 もう何度見返しただろうかという時、律が画面へ顔を近づけた。

「……姉さん」

 律は、映像を数秒巻き戻して止める。

「兄さんのスマホって、こんな色だったっけ……?」

 律が指さしたのは、彰人さんが持っているスマホだった。
 黒っぽい色の、シンプルなスマホ。
 彰人さんのスマホは……シルバーのはず。
 
「これ……仕事用のスマホだわ……」

 そう言葉にした瞬間、嫌な予感がして、背筋がぞくりと粟立った。

「そのスマホはどうしたの?」
「……遺留品の中にはなかった。もしかしたら、事務所名義だから、事務所に直接戻されたのかもしれない」
「確認しに行こう!」

 私たちは席を立つ。
 対応してくれた管理人さんや他の方々にお礼を言って管理室を出ると、外の空気がどっと肺に流れ込んだ。

 

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