義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】

15・彰人の言葉

 通信会社の建物から出ると、すっかり日が暮れていた。
 軽井沢さんと出口さんにお礼と別れを告げて、私と律は群青色の空の下を帰路につく。
 ──結局、クラウドに通話録音が残っているかもしれない、という話は出たものの、そこにアクセスするには手続きと時間が必要。それでも、暗号化されている可能性が高く、解読不可能な場合もある。結局、彰人さんが使っていた録音アプリから聞く以外に、方法がない。

「せめて、兄さんの使っていた録音アプリがなんなのかわかればなぁ」

 頭の後ろで手を組みながら、律が隣で言う。

「でも、仕事用スマホは解約されていたし……」 

 早く真相を知りたいのに。
 それでも、ほんのわずかでも前に進めていると、信じたい気持ちはあった。
 それ以上、会話は続かなかった。しばらく黙って歩いていると、律がこちらを見た。
 
「姉さん。手、出して」
「手?」
 
 言われるまま、律のほうに手を差し出す。

「はい、今日がんばったご褒美」

 掌に乗せられたのは、彰人さんの指輪がついたストラップだった。
 緑の石も、外れていた飾りも、すべて元通りになっている。
 壊れていた姿が嘘みたいだ。

「こんなに早く直してくれたの?」
「うん。今度はちゃんと、切れないように細いチェーンにしてみた」

 触れると、以前よりもひんやりとした感触があった。

「ありがとう……」

 そう言いながら、私は一瞬だけ迷って、ストラップを鞄の中にしまった。
 また失くしてしまったらと思うと、今すぐどこかにつける気にはどうしてもなれなかった。
 律は何も言わなかった。
 気づいていないのか、気づかないふりをしたのかは、分からない。
 鞄の中で、小さく金属が触れ合う音がした。
 彰人さんが見守ってくれている。そんな風に思えた。


 
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