義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 ──1月13日?
 なんとなくその日付が気になって、日記を読み進めるのを止める。
 この家に来た日は、たしかに雪が降っていた。でも私は、日付までは忘れていた。
 彰人さんにとって、特別な日になっていたなんて──。
 きゅっと胸が苦しくなる。

 その時、私の中でひとつの可能性が浮かんだ。

(まさか……)

 ページの続きを視界から外し、半信半疑でスマホに入力した。
 《0113》
 パスワードが、解除される。

「やった……!」

 彰人さんとの想いが通じたような気がして、思わずスマホを抱きしめた。
 私との出会いを、こんな形で残してくれていたなんて。覚えていてくれたことが、嬉しい。
 けれど開いたからといって、私に見つけることができるだろうか。
 警察は、問題ないと言っていたのに。
 
 そもそも、警察はどこまで調べてくれたんだろうか?
 詳しい内容は聞いていない。
 着信履歴やメール、メッセージを調べるが、確かにこれと言っておかしなものはなかった。
 DM以外では私や律、養父、内村さん、昔の友人……見知った名前ばかりだ。
 
 カレンダーのスケジュール機能や、メモ帳アプリなども開いてみる。
 これといって問題ない。
 アプリの一覧をスクロールしていくと、ゲームなどのアプリもあって、思わずクスリと笑う。
 彰人さんでも隙間時間にゲームするんだって、微笑ましくなった。
 すると、下の方に見慣れないアイコンがあった。
 
「通話……録音アプリ?」

 ガバッと画面を顔に近づける。

『いちばんいいのは、兄さんがなんのアプリを使っていたか、わかることかな』

 通信会社で言っていた、律の言葉を思い出す。
 
 もしかして……もしかしたら──縋る思いでアイコンをタップする。
 アカウント連携で簡単に開くことができた。
 クラウド上に、データが残っている。
 録音時刻は──九月の、あの日。
 心臓がひときわ大きく跳ねた。
 この向こうに、真実があるの──?
 これでわかるかもしれない。
 そう思うと、指が震えた。

「律……!」

 気づけば、律の部屋の扉を強く叩いていた。
 中からごそごそと人の気配がして、扉が開く。
 頬にシーツの跡をつけたままの律が、顔を出した。

「姉さん、どうしたの? そんなに慌てて」
「お願い、一緒に聞いて……!」

 彰人さんのスマホを両手で握ったまま懇願する。
 クラウドに通話の録音が残っているかもしれない──そう説明すると、律は目を見開く。

 一人で聞く勇気がなかった。
 このデータには、何が録音されているのか。
 もし、それが──私が踏み込んではいけない真実だったら。
 けれど、聞かなければ前に進めない。
 進まなければ、ずっとあの日のまま、止まってしまう。
 息を震わせながら、喉に力を込めもう一度言う。
 
「……お願い、律」

 律は、すぐには返事をしなかった。
 ただ、私の顔と、スマホを握りしめた手を見て、ほんの少し目を細めた。
 
「ん……わかった」
 
 本当は律に頼るべきじゃないのかもしれない。
 私も、本来なら毅然と自分の足で立っていなきゃいけないはずで。
 それでも、一人であの日に向き合う勇気は、どうしても出なかった。
< 65 / 106 >

この作品をシェア

pagetop