義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
「菜月……」
「菜月ちゃん」
二人の声が重なる。
堪えていたものが決壊し、涙があふれた瞬間──ふわりと、あたたかいものが肩に触れた。養父がすぐに私の横へ来ていた。
その腕が背を支え、そっと抱き寄せてくれる。
温かくて、大きくて、子どもの頃から変わらない香りがした。
「つらかったな……すまん。こんな思いをさせて」
声がわずかに震えている。
それがまた胸に刺さって、涙が止まらない。
向かい側では、軽井沢さんが目を伏せていた。
ただ、静かに、私たちの様子を受け止めるように見守ってくれている。
その距離が、逆に優しかった。
「……菜月。つらいところ悪いが、どうしても気掛かりがある」
養父は私の背中をさすりながら、苦い顔で続けた。
「律だ。……あいつ、茉莉乃のところへ行ったんじゃないか?」
その言葉に、軽井沢さんがはっと顔を上げる。
「たぶん、そうだろう。龍樹、茉莉乃さんの住所は?」
「あれ以来、会っちゃいないよ。今頃どこにいるか……」
「えっ? じゃあ、律くんは茉莉乃さんと連絡を取り合っていたってことか?」
軽井沢さんの疑問に、養父は困惑したように眉を寄せる。
律と茉莉乃さんが実の親子なら、連絡を取り合っていてもおかしくはない。
けれど、律の境遇を知ってしまった今では、それがもう当たり前ではない。
録音で彼女の声を聞いた時の態度、そして、さっき律が家を飛び出したときの、剣幕な様子。二人の間に、何かがあったことは明白だ。
過ぎたことの真実よりも、今は── あの子がどこにいて、何をしようとしているのか。
その方が、ずっと危険かもしれない。
「律に、電話してみましょうか……」
今、どこにいるのか。もし茉莉乃さんのところでなくても、心配なことに変わりはない。
その時、養父のスマホが突然震えた。
画面を見た養父の表情が、みるみる強張る。
「……御影先生だ」
小さく呟く声が、どことなく硬い。
急用にしても、タイミングが悪すぎる。
「菜月ちゃん」
二人の声が重なる。
堪えていたものが決壊し、涙があふれた瞬間──ふわりと、あたたかいものが肩に触れた。養父がすぐに私の横へ来ていた。
その腕が背を支え、そっと抱き寄せてくれる。
温かくて、大きくて、子どもの頃から変わらない香りがした。
「つらかったな……すまん。こんな思いをさせて」
声がわずかに震えている。
それがまた胸に刺さって、涙が止まらない。
向かい側では、軽井沢さんが目を伏せていた。
ただ、静かに、私たちの様子を受け止めるように見守ってくれている。
その距離が、逆に優しかった。
「……菜月。つらいところ悪いが、どうしても気掛かりがある」
養父は私の背中をさすりながら、苦い顔で続けた。
「律だ。……あいつ、茉莉乃のところへ行ったんじゃないか?」
その言葉に、軽井沢さんがはっと顔を上げる。
「たぶん、そうだろう。龍樹、茉莉乃さんの住所は?」
「あれ以来、会っちゃいないよ。今頃どこにいるか……」
「えっ? じゃあ、律くんは茉莉乃さんと連絡を取り合っていたってことか?」
軽井沢さんの疑問に、養父は困惑したように眉を寄せる。
律と茉莉乃さんが実の親子なら、連絡を取り合っていてもおかしくはない。
けれど、律の境遇を知ってしまった今では、それがもう当たり前ではない。
録音で彼女の声を聞いた時の態度、そして、さっき律が家を飛び出したときの、剣幕な様子。二人の間に、何かがあったことは明白だ。
過ぎたことの真実よりも、今は── あの子がどこにいて、何をしようとしているのか。
その方が、ずっと危険かもしれない。
「律に、電話してみましょうか……」
今、どこにいるのか。もし茉莉乃さんのところでなくても、心配なことに変わりはない。
その時、養父のスマホが突然震えた。
画面を見た養父の表情が、みるみる強張る。
「……御影先生だ」
小さく呟く声が、どことなく硬い。
急用にしても、タイミングが悪すぎる。