義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 うちに戻ってきたスマホは、シルバーの彰人さんの個人用スマホ。
 黒の仕事用は……事務所に直接戻されたはず。
 総務の職員も、はっきりと言っていた。

 《仕事用スマホなら、警察の方に渡されました。どうすればいいか御影先生に確認したところ……『もう使わないから、解約して構わない』と言われたので、解約しましたが……》

 警察には、二台あったはずだ。なのに。
 出口さんの言葉は、それを根底から覆してくる。
 混乱が整理されるよりも先に、乾いた笑い声が部屋に響いた。
 
「あっはははは! しょうがないわね、教えてあげる。あれはね、アタシが回収したの」
「なんだと?」
 
 出口さんが、眉を顰める。
 
「彰人くんが死んだのを確認してから、アタシが回収して、内ポケットに入っていた個人用と入れ替えたの。わかる?」
 
 悪びれた様子もなく、田口茉莉乃は肩をすくめる。
 まるで、ちょっとした手品の種明かしでもするかのような口調だった。

「でも、警察が持ってきたって……!」
 
 思わず口を挟む。
 それでは、総務の職員の証言と食い違ってくる。
 
「知り合いの男に頼んで持って行ってもらったのよ。スーツを着ていればわかんないでしょ?」

 警察が見逃したのではない。
 最初から、なかった(・・・・)のだ。
 
 警察と名乗る男から、遺留品の返却だと言ってスマホを渡された。なんの疑問も感じなかった総務の職員は、当然のように所長にスマホをどうすればいいか訊ねる。そして、もう使わないから解約──結果、自分の手を煩わせることなく証拠が隠滅される。この一連の流れに、私は戦慄を覚えた。それは、律も同じだったようで──。
 
「できすぎてる……。本当にあんたが考えたのか……?」
「さあ……?」
 
 彼女は唇の端を上げるだけで、答えようとしない。
 その態度に、律はさらに深く眉間に皺を寄せる。

 もうひとつ、確かめたいことがあった。

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