義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 二十年分の後悔も、罪も、恐れも。
 それをすべて抱え込んで、私を守ろうとしてくれた人たちがいた。
 ならば今度は、私が覚悟を決める番だ。
 視線を上げる。
 過去ではなく、目の前に立つ男へ。
 
「そういうわけで、御影先生。あなたの脅しには、私も養父も屈しません」

 この話を聞いていて良かった。
 軽井沢さんの予想が大当たりしてしまった。
 彰人さんが〝狙われた〟とすれば、次に危ういのは私だと。
 そして、この情報をネタに取引を持ちかけてくる人物が、これから現れるかもしれない、と。
 早速、現れてしまったのだ。
 
 御影先生を強く睨むが、彼は何事もなかったかのように冷静な表情だった。

「……脅し? 菜月くん、誤解だよ。私はただ、宝堂グループにとって最善の道を行こうと言っているだけなんだ」
「最善の道……?」
「そうさ。君は実に聡明だ。法律事務所の助手に納まるべきじゃない。私が彰人くんの代わりにグループを継ぐ。そして君は私の妻となり右腕になる。そうすれば、グループの未来も安泰じゃないか!」

 まるで当然のことのように、御影先生は両手を広げ高らかに笑う。
 この状態で笑えることが、信じられない。
 すると、いきなり別方向から甲高い声が飛んできた。

「ちょ……っと……! 約束が違うじゃない!」

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