義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 部屋に残るものは、ほとんどなかった。
 必要なものをまとめ、最後にスーツケースの中へと彰人さんの遺影を収める。
 フレームが割れないように、洋服の間に挟んだ。
 
 大きなスーツケースを引いて、宝堂の家を出た。
 門を出た先の通りは、クリスマスのイルミネーションが飾られている。
 楽しげな色彩が、今の私には全然似合わなくて。
 寒さを凌ぐように、コートの前をぎゅっと握った。
 地面を転がるキャスターの音が大きく聞こえて、思わず足が早まってしまう。
 
「姉さん、待って!」

 後ろから、必死な声が聞こえた。
 振り返らなくても、どんな顔をしているか想像がつく。
 
「ひどいよ、何も言わずに出ていくなんて」
「うん」

 そのとおり、私はひどい人間だ。こんなに慕ってくれる律を置いていくなんて。

「どうしてわかったの?」
「姉さんのことなら、なんでもわかるよ……」
「……そう?」
 
 胸の奥が詰まる。早くここを離れなければ。
 いつもそうだ。律の顔を見ていると、全部許しそうになってしまう。
 スーツケースの取手を、強く握る。
 
「ごめんね、律。私は独りで生きていく」
「俺も行く」
「だめよ。早く義姉(あね)離れしなさいって言ってるでしょう?」
「そんなの……カンケイない……っ」

 その瞬間、律が私を強く抱きしめた。
 胸の中のあたたかさを、感じてしまう私がいる。

「……離して」

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