義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 言うと、意外にもすんなり離れてくれた。
 
 私は、そっと律の頬に触れる。
 今までの想いをすべて込めて、唇を重ねた。
 これは、きっと私が一生背負っていく、罪と罰。
 知らずと、涙が頬を伝った。

 固まってしまった律から数歩離れ、片手で乱暴に口を拭う。

「……借り、返すね」

 律は目を見開いたまま、動かない。
 瞳だけが、大きく揺れている。

「さよなら、律」

 背を向けて、スーツケースを引いて歩いていく。

「ま……待って!」

 律の声が引き止める。
 
「ずるい……そんなの、反則だ。だって……俺からじゃない……!」

 ゆっくり振り返ると、律はいつもの笑顔を崩して泣き出しそうな顔をしていた。
 
「姉さん、宝堂から一緒に逃げよう」
「私が愛してるのは、彰人さんだけよ」
「兄さんの代わりでもいい。ただ、そばにいてくれれば。宝堂の名を捨てなきゃ……きっと、ずっとこの繰り返しだ」
 
 それは、今回の件で嫌というほど理解した。
 だから私は、独りで行こうとしていたのに。
 なのに、次の瞬間には思わず口をついていた。
 
「……ついてきてもいい」

 これは救いじゃない。わかっているのに、手を伸ばしてしまった。
 距離を置くべき相手だと分かっているのに、なぜかこの一歩だけは拒めなかった。
 
 それでも──
 
「だけど、律が私に触れたら……私は死ぬわ」

 空気が凍りつく。
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