義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 律の息が止まる気配がした。
 これは脅しではない。本心だ。
 もう、私には何もない。空虚が心を支配してしまう前に、すべてを終わらせてしまってもいい。けれど、ほんの少しの希望があるとしたら。
 ──律。
 あなたが私に生きてほしいと願うなら。
 それに縋ってみても、いいのかもしれない。
 
「……わかった」

 律は、ゆっくりと近づいてきて。
 少し小走りになって、私に追いついた途端、手を握る。

「言ってるそばから」
「姉さんが逃げないように、俺がつかまえてる」

 律は目を潤ませながら、無理にでも笑おうとする。
 触れたら死ぬと言ったのに。
 それでも、律は手を離さなかった。
 私も、振り払うことができなかった。

 通りの向こうで、イルミネーションが淡く瞬いている。
 誰かの幸せを祝う光が、私たちの影だけを長く引き延ばす。
 どこへ向かっているのかはわからない。
 けれど──
 これは、私にとって新しい罰の、始まりなのかもしれない。
< 93 / 106 >

この作品をシェア

pagetop