運命の契約書

第15話 母の病気

○神崎グループビル 15階 国際事業部 昼

美優が集中して仕事をしていると、携帯が鳴る。画面には「健人」の文字。

美優:「健人? どうしたの?」

健人(電話越し):「姉ちゃん、お母さんが…」

声が震えている。

美優:「お母さんがどうしたの?」

健人:「急に倒れて、今救急車で病院に運ばれてる」

美優、血の気が引く。

美優:「今すぐ行く。どこの病院?」

健人:「丸の内総合病院」

美優:「わかった。すぐに行くから」

電話を切る美優。慌てて荷物をまとめる。



田村:「横井さん、どうしたの?」

美優:「母が倒れて…すみません、早退させてください」

鈴木係長:「大変! すぐに行きなさい」

美優:「ありがとうございます」

美優、急いで席を立つ。

佐藤:「横井、何かあったら連絡して」

美優:「ありがとう」

慌てて部署を出る美優。田村と佐藤、心配そうに見送る。


○丸の内総合病院 救急外来 昼

美優が病院に駆けつけると、健人が待合室にいる。

美優:「健人! お母さんは?」

健人:「まだ検査中。詳しいことはわからない」

美優:「どんな様子だったの?」

健人:「朝は普通だったんだけど、昼頃から急に顔色が悪くなって…」

健人、不安そうに話す。

健人:「姉ちゃん、お母さん大丈夫だよね?」

美優:「大丈夫。お母さんは強いから」

自分に言い聞かせるように答える美優。

医師が待合室にやってくる。

医師:「横井さんのご家族の方ですね」

美優:「はい。娘です」

医師:「お母様の容態についてお話しします」

美優と健人、緊張して医師の話を聞く。

医師:「病気が進行しています。すぐに手術が必要な状態です」

美優:「手術…」

医師:「手術費用ですが、保険適用外の治療も含めて、約500万円ほどかかります」

美優、その金額に愕然とする。

美優:「500万円…」

医師:「ご家族でよくご相談ください。お母様の命に関わることですので」


○病院 待合室

医師が去った後、美優と健人が呆然としている。

健人:「500万円って…」

美優:「お母さんの命には代えられない」

健人:「でも、そんなお金どこにもない」

美優、頭を抱える。

美優:「何とかする。絶対に何とかする」

健人:「姉ちゃん…」

美優:「健人、学校は?」

健人:「今日はもう帰る。お母さんのそばにいたい」

美優、健人の肩を抱く。

美優:「二人で頑張ろう」


美優、廊下で蓮に電話をかける。

美優:「蓮さん、すみません」

蓮(電話越し):「美優さん? どうされました?」

美優:「母が倒れて、病院にいるんです」

蓮:「大変! すぐに伺います」

美優:「いえ、大丈夫です。お仕事が…」

蓮:「仕事など後回しです。どちらの病院ですか?」

美優:「でも…」

蓮:「美優さん、一人で抱え込まないでください」

美優、その優しさに涙ぐむ。

美優:「丸の内総合病院です」

蓮:「すぐに行きます」



○丸の内総合病院 待合室 夕方

蓮が病院に到着。美優と健人を見つける。

蓮:「美優さん」

美優:「蓮さん…来てくださったんですね」

蓮:「当然です。お母様のご容態は?」

美優、手術の必要性と費用について説明する。

蓮:「500万円…」

健人:「姉ちゃんが一人で何とかしようとしてるんです」

蓮、美優の苦悩を理解する。

蓮:「美優さん、私がお手伝いします」

美優:「え?」

蓮:「手術費用、私が負担いたします」

美優:「そんな…できません」

蓮:「なぜですか?」

美優:「そんな大金、受け取れません」


蓮:「お母様の命の方が大切でしょう?」

美優:「それは…そうですが」

蓮:「それなら遠慮する必要はありません」

美優:「でも、そんなことをしていただいたら…」

蓮:「何ですか?」

美優:「私、蓮さんにお返しできるものがありません」

蓮、美優の手を握る。

蓮:「お返しなど求めていません」

美優:「でも…」

健人:「姉ちゃん、お母さんのことを一番に考えようよ」

美優、健人の言葉に涙を流す。

美優:「わかりました…お借りします」

蓮:「借りるのではありません。私があなたの家族にできることです」


○病院 医師の説明室

医師、美優、健人、蓮が手術について話し合っている。

医師:「では、明日の朝一番で手術を行います」

美優:「よろしくお願いします」

医師:「手術は6時間ほどかかります」

健人:「成功率は?」

医師:「80%です。お母様の意志の強さも重要な要素になります」

美優、母親の病室を見る。

美優:「お母さんは強い人です。きっと大丈夫」

蓮、美優の肩をそっと支える。


○病院 恵子の病室 夜

美優と健人が母親のベッドサイドにいる。恵子、意識はあるが弱っている。

恵子:「美優…健人…」

美優:「お母さん、大丈夫よ。明日手術して、きっと良くなる」

恵子:「ありがとう…でも、お金のこと…」

美優:「心配しないで。何とかなったから」

恵子:「どうやって?」

美優、蓮のことを話すか迷う。

美優:「…信頼できる人が助けてくれたの」

恵子:「その蓮さんという人?」

美優、驚く。

美優:「なぜ?」

恵子:「健人から聞いたの。とても良い人だって」

健人:「うん。姉ちゃんのこと、本当に大切にしてくれてる」

恵子、安心したような表情。

恵子:「美優、あなたは幸せになりなさい」

○病院 廊下 夜

蓮が一人で待っていると、美優が病室から出てくる。

美優:「お疲れさまです。ずっと待っていてくださったんですね」

蓮:「当たり前です」

美優:「蓮さん、本当にありがとうございます」

蓮:「礼を言われるようなことではありません」

美優:「でも…」

蓮:「美優さん、あなたの家族は私の家族でもあります」

美優、その言葉に感動する。

美優:「家族…」

蓮:「将来、正式にそうなりたいと思っています」

美優、蓮の真剣な表情を見つめる。

美優:「蓮さん…」

蓮:「今はお母様のことだけ考えてください」


○高級マンション 麻里子の部屋 同時刻

麻里子が電話で誰かと話している。

麻里子:「そう、お母様が入院されたのね」

相手(電話越し):「はい。高額な手術費用が必要だそうです」

麻里子:「蓮さんが援助されたの?」

相手:「そのようです」

麻里子、考え込む。

麻里子:「思ったより本気なようね」

相手:「どうなさいますか?」

麻里子:「この機会を逃すわけにはいかないわ」

意味深な表情の麻里子。


○病院 手術室前 朝

手術室の前で、美優、健人、蓮が待っている。

美優:「6時間…長いですね」

蓮:「お母様は強い方です。大丈夫です」

健人:「俺、怖いよ」

美優、健人の手を握る。

美優:「大丈夫。お母さんは負けない」

蓮、二人を見守る。

モノローグ(蓮):「美優さんが幸せでいられるなら、何でもしてあげたい」

手術室の扉の上の「手術中」の赤いランプが点灯している。


○病院 待合室 昼

3時間が経過。美優は疲れているが、健人のために強がっている。

蓮:「少し休まれてはいかがですか?」

美優:「大丈夫です」

蓮:「無理をしないでください」

そこに竹内由香が現れる。

由香:「美優ちゃん!」

美優:「由香ちゃん、どうして?」

由香:「健人君から連絡もらったの。心配で」

美優、友人の優しさに涙ぐむ。

美優:「ありがとう」

由香:「こちらの方が蓮さん?」

蓮:「はじめまして」

由香:「いつも美優がお世話になっています」



○病院 手術室前 夕方

手術室の扉が開き、医師が出てくる。

医師:「手術は成功しました」

美優と健人、ほっとして抱き合う。

美優:「良かった…」

健人:「お母さん、頑張ったね」

医師:「しばらくICUにいますが、意識も安定しています」

蓮:「本当に良かった」

美優、蓮に向き直る。

美優:「蓮さんのおかげです。本当にありがとうございました」

蓮:「お母様が無事で何よりです」

美優、初めて素直に蓮の胸で泣く。

美優:「ありがとう…本当にありがとう」

蓮、優しく美優を抱きしめる。

モノローグ(美優):「蓮さんがいなかったら、お母さんを失っていたかもしれない。この人は、私の運命の人なんだ」

モノローグ(蓮):「美優さんの涙を見るのは辛い。でも、彼女を守れて良かった」

ナレーション(美優):「母の手術は成功した。蓮さんの支えがなければ、乗り越えられなかった試練。この恩は一生忘れない。でも、これで平穏な日々が戻ってくるのだろうか──」


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