愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う
第23話 Sideレニー
〈レニー視点〉
「アリシア、大丈夫かい?」
僕は寝台に横たわるアリシアの顔を覗き込む。
彼女がゆっくりと上半身を起こそうとするのを、僕は慌てて止めた。
「寝てて良い。どこが悪いんだい?」
アリシアは僕の言葉を無視して、上半身を起こした。僕は仕方なくその背にクッションを置いた。
「ありがとう、レニー。何だか身体が怠くて」
「医者には診てもらった?」
僕の問いにアリシアは首を横に振った。
「どうして?体調が悪いなら医者に診てもらわなきゃ」
「だって……熱もないし、身体が怠いだけなのよ?しかもこんな時間だし……お医者様に悪いわ」
確かに僕たちは夕食を食べていたが、普通ならもう各々休む時間だろう。ダンスレッスンですっかり夕食が遅くなったが、デボラは文句を言わずに付き合ってくれた。ありがたい。
「だが、ハルコン侯爵家の名を出せば直ぐに駆けつけてくれるだろ?ここの主治医を務めてるんだし」
「でも……」
僕を呼ぶのは良くて医者はダメだって?普通逆だろ……と思って、僕はハッとした。今までならアリシアに頼られて嬉しいはずなのに……。ダンスのレッスンで疲れたせいかな?
「直ぐに呼んでもらうよう、執事に言うよ」
僕は開いた扉に向かう。すると、アリシアの声が背中に掛かる。
「もう少し休んでいれば良くなると思うわ!もし明日も悪かったら診てもらうから!」
そんなに医者に気を使わなくても……そう思うが、僕はもうハルコン家の人間じゃない。そんな僕が口を挟むのもお門違いという所だろう。
「そうかい?もし明日まで怠いようだったら、必ず医者に診てもらうんだ。いいね?」
「ええ、約束するわ」
そう言ってアリシアは細く白い小指を僕に差し出した。子どもの頃から、僕とアリシアは約束する度にこうして指切りをしたものだ。だけど、今の僕は何だかその指を取ることに躊躇いを覚えた。
「レニー?」
「あ……あぁ、ごめん」
僕は急いで自分も小指を差し出す。するとアリシアはニッコリと笑って僕の指に自分の指を絡めた。
「さぁ、もう休んで」
僕はサッとその指を外すと、アリシアに横になれと促す。
「えっ……せっかくレニーが来てくれたのに……もう少しお喋りしましょう?」
体調が悪くてもお喋りは出来るのか……女性とは不思議な生き物だと、僕は思いながら手近にあった椅子を寝台の横に持って来て座った。
「最近……あまり食事が出来てなかったから……」
「またかい?好きな物を少しずつでもいいから食べなきゃ」
「だって……一人の食事は味気なくて……何を食べても美味しくないんですもの」
アリシアは一人になるのを極端に嫌う。実家での複雑な家庭環境のせいだと父は言っていた。
「仕方ないさ。兄さんは殿下の側近。僕が王宮内であっても挨拶ぐらいしか出来ない程忙しそうだ」
「でも……結婚する時、クラッドは約束してくれたのに……私をいつも笑顔にしてくれるって」
いつも笑顔って……兄さんは道化にでもならなきゃいけないな……僕は道化の化粧を施した兄さんを想像して吹き出しそうになった。
「兄さんも侯爵の仕事と王宮での仕事でいっぱい、いっぱいなんだろう。結婚したんだし、それは少し我慢しなきゃ」
デボラは僕が居なくて寂しいなんて、思ったこともないんだろうな……そうふと考える自分に驚く。アリシアと一緒に居るのに、デボラのことを考えるだなんて……。
「レニーもクラッドと同じことを言うのね。仕事だから我慢しろって。その上クラッドったら、『時間があるなら、結侯爵夫人としての振る舞いを勉強する良い機会になるかもしれないよ』なんて言うの」
兄さんの言う事は最もだろう。侯爵家の夫人なんて、やることが多そうだ。だって伯爵夫人のデボラでさえ、あんなに忙しそうなんだから。
あ!また無意識にデボラのことを……っ!
「じ、時間があるなら、本を読んだり、刺繍をしたり……ほら、女性が好きそうなことも出来るじゃないか。気も紛れるさ」
僕は何かを誤魔化すように早口でそう言った。
「アリシア、大丈夫かい?」
僕は寝台に横たわるアリシアの顔を覗き込む。
彼女がゆっくりと上半身を起こそうとするのを、僕は慌てて止めた。
「寝てて良い。どこが悪いんだい?」
アリシアは僕の言葉を無視して、上半身を起こした。僕は仕方なくその背にクッションを置いた。
「ありがとう、レニー。何だか身体が怠くて」
「医者には診てもらった?」
僕の問いにアリシアは首を横に振った。
「どうして?体調が悪いなら医者に診てもらわなきゃ」
「だって……熱もないし、身体が怠いだけなのよ?しかもこんな時間だし……お医者様に悪いわ」
確かに僕たちは夕食を食べていたが、普通ならもう各々休む時間だろう。ダンスレッスンですっかり夕食が遅くなったが、デボラは文句を言わずに付き合ってくれた。ありがたい。
「だが、ハルコン侯爵家の名を出せば直ぐに駆けつけてくれるだろ?ここの主治医を務めてるんだし」
「でも……」
僕を呼ぶのは良くて医者はダメだって?普通逆だろ……と思って、僕はハッとした。今までならアリシアに頼られて嬉しいはずなのに……。ダンスのレッスンで疲れたせいかな?
「直ぐに呼んでもらうよう、執事に言うよ」
僕は開いた扉に向かう。すると、アリシアの声が背中に掛かる。
「もう少し休んでいれば良くなると思うわ!もし明日も悪かったら診てもらうから!」
そんなに医者に気を使わなくても……そう思うが、僕はもうハルコン家の人間じゃない。そんな僕が口を挟むのもお門違いという所だろう。
「そうかい?もし明日まで怠いようだったら、必ず医者に診てもらうんだ。いいね?」
「ええ、約束するわ」
そう言ってアリシアは細く白い小指を僕に差し出した。子どもの頃から、僕とアリシアは約束する度にこうして指切りをしたものだ。だけど、今の僕は何だかその指を取ることに躊躇いを覚えた。
「レニー?」
「あ……あぁ、ごめん」
僕は急いで自分も小指を差し出す。するとアリシアはニッコリと笑って僕の指に自分の指を絡めた。
「さぁ、もう休んで」
僕はサッとその指を外すと、アリシアに横になれと促す。
「えっ……せっかくレニーが来てくれたのに……もう少しお喋りしましょう?」
体調が悪くてもお喋りは出来るのか……女性とは不思議な生き物だと、僕は思いながら手近にあった椅子を寝台の横に持って来て座った。
「最近……あまり食事が出来てなかったから……」
「またかい?好きな物を少しずつでもいいから食べなきゃ」
「だって……一人の食事は味気なくて……何を食べても美味しくないんですもの」
アリシアは一人になるのを極端に嫌う。実家での複雑な家庭環境のせいだと父は言っていた。
「仕方ないさ。兄さんは殿下の側近。僕が王宮内であっても挨拶ぐらいしか出来ない程忙しそうだ」
「でも……結婚する時、クラッドは約束してくれたのに……私をいつも笑顔にしてくれるって」
いつも笑顔って……兄さんは道化にでもならなきゃいけないな……僕は道化の化粧を施した兄さんを想像して吹き出しそうになった。
「兄さんも侯爵の仕事と王宮での仕事でいっぱい、いっぱいなんだろう。結婚したんだし、それは少し我慢しなきゃ」
デボラは僕が居なくて寂しいなんて、思ったこともないんだろうな……そうふと考える自分に驚く。アリシアと一緒に居るのに、デボラのことを考えるだなんて……。
「レニーもクラッドと同じことを言うのね。仕事だから我慢しろって。その上クラッドったら、『時間があるなら、結侯爵夫人としての振る舞いを勉強する良い機会になるかもしれないよ』なんて言うの」
兄さんの言う事は最もだろう。侯爵家の夫人なんて、やることが多そうだ。だって伯爵夫人のデボラでさえ、あんなに忙しそうなんだから。
あ!また無意識にデボラのことを……っ!
「じ、時間があるなら、本を読んだり、刺繍をしたり……ほら、女性が好きそうなことも出来るじゃないか。気も紛れるさ」
僕は何かを誤魔化すように早口でそう言った。