野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)
すでに三十歳近くて、重いご身分の方だから、女房(にょうぼう)たちも適当にあしらうことはできない。
<やはり(みや)様と男女の関係になりたいとお思いのようだ>
と想像すると、ますますどう申し上げたら無難(ぶなん)か分からない。
女房同士で小声で話し合って、結局宮様にお願いした方がよいということになったみたい。
大将(たいしょう)様のご不満をお伝えしたあと、
「お返事しにくいとは存じますが、あまり頑固(がんこ)なご態度でいらっしゃいますのも、(なさ)()らずのように思われてよくありませんでしょうから」
とお願いする。

宮様は仕方なく女房におっしゃる。
「病気の母に代わって私がお返事するべきですが、こちらに移ってからも妖怪(ようかい)がひどく騒ぎまして、私まで体調が悪くなっております。とてもお返事できません」
今日初めての宮様のお返事に、大将様は()ずまいを正された。
「私が御息所(みやすんどころ)のご病気をここまでご心配申し上げているのは、どうしてだとお思いですか。宮様がお元気を取り戻された姿を御息所にご覧いただきたいからですよ。悲しい未亡人(みぼうじん)のお姿で母君(ははぎみ)とお別れなさっては()いが残りましょう。御息所もそれではご成仏(じょうぶつ)できますまい。だから今お亡くなりになっては困るのです。もうしばらく生きて、宮様がお幸せになるところを見届けていただきたい。
そういうつもりでおりますのに、単純に御息所のご病気を心配しているだけと思われてはつろうございます」
女房たちは同情しながら聞いている。
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