嘘つきな天使

「実は今日籍を入れてきたばかりなの~♪だから西園寺さんのマンションに引っ越すからあの1Kともおさらばよ♪」

由佳は両手をあげて万歳のポーズ。

「な、何でそんないきさつに!」思わず勢い込むと

「実は加納くんに浮気されてるかも、って加納くんと付き合ってるときから西園寺さんには愚痴ってったんだよね。そしたら『そんな男早く別れて、付き合ってほしい』ってずっと言われてたんだけど…」

ぽっ

由佳は改めて顔を赤くする。

「最初は全然その気になれなかったけど、でも彼の猛アタックに根負けしたって言うか…」
てか西園寺刑事さん、警護するとかいってちゃっかり口説いてんじゃないわよ!職務をまっとうしろ!

てか私はまた悪いオトコに騙されてるんじゃないかと一瞬疑ったが、西園寺刑事さんは最初から親身になってくれてたし、何より天真の幼馴染だ。信用はできる。

「事件解決後も、『じゃぁさよなら』って感じじゃなく、毎日連絡くれるしたまに食事したり……で、よくみたらそこそこかっこいいし何より公務員っていいじゃない?」

由佳……高校のときはこんな感じじゃなかったのに。それこそ白馬の王子様を待ってるタイプだったのに。白馬はパトカー、職業は公務員と言う手堅い。やっぱもっと早くアップデートしておくべきだった。

「勿論、産婦人科は天真先生のとこじゃないよ?」

「へ?何で?」

「だって天真先生に診て貰うのって何だか恥ずかしいじゃん。それに天真先生は彩未のものだし」

私のものって言っても、他にも一日何十人とも女性の秘部を観察してる人だよ?まぁそれでヤキモチ妬くことはないけど。だって仕事だし。腕はいいのか、患者は減ることなく、最近私が病院のHPに手を加えたのが功を奏した(?)のか増えた気がするし。

おかげで以前より仕事が増えて私はあくせくしている。相変わらず香坂さんには怒られてばかりだし。

「ねぇ彩未ぃ、二人って結婚したんでしょ?もう仕事辞めてもいいんじゃない?」

「結婚ったって籍いれただけだし未だに実感ないんだよね」

籍を入れたこと、職場では香坂さんにしか喋ってない。他の看護師さんが知ったら私間違いなく締め上げられる。

ぞわわ、と背中に鳥肌が浮かんで思わず両腕で肩を抱き締める。

「えー、私彩未のウェディングドレス姿見たい~」と由佳が子供のような口調で言う。

「落ち着いたら、ね」実はウェディングドレスの写真だけは撮った。でも何故だか恥ずかしくて由佳には言い出せない。だってここにはないけど天真の病院の家の二階部分にこれでもか!ってぐらい私たちの写真を壁いっぱいに飾った天真。それはまるで外国映画の裕福な家庭のような、その光景を見ただけで恥ずかしすぎる。

でも、天真は―――たった一枚しか残してくれなかった千尋さんの記憶を上書きしたいんだろう。

「何よ、落ち着いたらって」

「んー、今はまだバタバタしてるし」と適当に言い訳をしたが、これには天真のお父さん藤堂総合病院の理事長からもうちの両親からも結婚式をやることをしょっちゅう言われてるけど……てかお披露目するなんて何だか恥ずかしいし、大体私由佳しか友達居ないし。

てか天真のお父さん、私たちが結婚するとき泣きながら喜んでくれたな。それは嬉しかったけど、結婚式をド派手にやろうとお父さんの方が張り切っちゃって何だか怖くなっちゃって。

「私は毎日天真と二人で一緒にいられるだけで今は幸せだから」

そう、今はそれだけで幸せ―――


それに私は―――もう一人の体じゃない。
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