嘘つきな天使
変化は一か月ほど前。私は毎回生理が定期的にやってくるけれど二週間も遅れれば流石に疑った。天真にはまだ言ってないけど市販の検査薬で調べたら陽性だった。
天真との赤ちゃんがこのお腹の中にいるって、気づいたとき最初全然実感なかったし、天真にもまだ喋ってない。
でも不思議だね。私の中にもちゃんと母性ってものがあって、天真との未来がどうであれこの子だけはしっかり私が守ってあげないと、って気にさせられた。
でもいつか言わなきゃ…だよね。
この日、私は由佳と別れてから天真の産婦人科の家に帰った。
「ただいま~」と途中のスーパーで買い物をしてきた食材の詰まったビニール袋をテーブルに置いて、まさに着替え途中の(てかまた着替えかよ)天真に声を掛けると
「あれ?今日は”あっち”へ行くって俺言わなかったっけ?」
「うん、でも気が変わったの」
ここに帰る途中雨が降ってきた。実は由佳とお喋り中から天候が怪しくなってきて、ここに来ることを決めた。
「だったら連絡しろよー、迎えに行ったのに」
ふふっ、相変わらず天真って過保護だよね。
「入違いにならないように早めに来たの。今日は半休くれてありがと」
「金田さんとは話せた?向こうは休職中だろ?」
実は、由佳があの会社を辞めたことまだ天真には言えてない。いくら加納くんと莉里ちゃんの仕業だったとしても由佳が居心地悪い思いを知ったら天真のことだから、また何かやらかしそうで…
「うん、何で休職したのか気になったけど、聞いてよー」と私が天真に駆け寄ると
「うんうん、後から聞く。それより久しぶりに飲まね?」と天真は小さな食器棚からロックグラスを取り出した。
お酒?
「や、私は今日……」飲む気分じゃないって言うべき?それとも妊娠したってちゃんと報告するべき?迷っていると、すでに天真は用意したロックグラスにウィスキーを注いでるし。
天真は二つのロックグラスを持って窓枠に歩いて行った。
結局、三か月経った今でも千尋さんの亡くなった死因は警察の捜査を持っても未だ不明な状態だ。何せ五年も前の話だ。莉里ちゃんと”A”の繋がりもそこまで深くなく多くの暴行事件で逮捕起訴された祥との繋がりも意外と希薄なもので、二人の関係から事件を洗い出すのが難航している状態。しかしこれも時間の問題だろう。莉里ちゃんを最初に”A”に誘った人物を莉里ちゃんが吐けば手掛かりは見つかる筈。
今日も天真は亡くなった千尋さんのことを思って雨を眺め、ウィスキーと雨の匂いを確かめるのか、と思うとお腹の辺りがちくりと痛んだ。いけない、今は余計なこと考えちゃ。
お腹の中の子に悪い。