嘘つきな天使
「あいつはああ見えて結構優秀だから細かいこと何でも相談するといいぞ」と天真が真顔で言った。
「うん、そう言えば”A”を紹介してくれた莉里ちゃんのこと聞かれた」
”莉里”と言う名前が出たとき、天真の眉がまたもぴくりと動いたのは気のせいかな……
「西園寺は何て?」と天真が真剣に聞いて
「何も。ただ名前をメモ帳に書きつけていっただけ」と由佳が不思議そうに首を傾ける。
「前から思ってたけど、やっぱ天真”莉里”ちゃんのこと知ってるんじゃ……」
「患者さんの一人だったとか?珍しい名前だもんね」
天真はそれに応えず顎に手を当てている。
そんなことを話しているとあっという間に時間が過ぎ
「もうそろそろ面会時間終わりですよ」と一人の看護師さんが入ってきた。
「そろそろお暇しなきゃね」
加納くん……今日は間に合わなかったか…とちょっと残念に思っていると
「ここにね」
由佳が帰ろうとしていた私たちに語り掛けてきた。子供がいたであろう場所を両腕で抱きしめている。
「確かにいたんだよね、私の赤ちゃん。あんなに中絶すること考えてたのに、いざいなくなっちゃうと、何でかな……
寂しくて…」
由佳は俯きながら声を震わせた。
由佳―――泣いて―――
私はぎゅっと由佳を抱きしめ
「……大丈夫だよ。今回はダメだったけど先生は今後も妊娠は望めるって。今度は確実に大好きな人との子供がきてくれるよ」
「彩未……」由佳が顔を上げた。その顔にはやっぱり涙が浮かんでいて、「彩未ぃ」と私をぎゅっと抱きしめ返す。
「……わ、私…彩未がいてくれて良かった!彩未がいなかったらきっとここまで立ち直れなかった」
私は何もしてない。殆ど天真が手助けしてくれたおかげ。
私は天真の方を振り返った。もらい泣きなんてらしくないけど、涙が止まらないんだよ。
天真は寂しそうに笑って私たちに近づくと私たち二人をぎゅっと抱きしめてくれた。
天真の力強い抱擁はあったかくて、やっぱり安心する。
天真
天真が居てくれて良かった。