天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜


「じゃん! ここは蜜の貯蔵庫!
……まあ、今はちょっとスカスカですけどね」


扉を開ければ、ひんやりとした空気とともに、いくつもの壺や桶が並ぶ広い部屋。

スズメバチたちの蜜は、ミツバチのように繊細な香りではなく、濃密で
やや発酵の進んだ香りだった。


「この香りは……果実蜜と、蜜酒……?」
「そう! スズメバチの蜜は、熟成させて香りを濃くするんですよ。
飲むとかなーり酔うけど〜!」
「お酒、なんですね」
「兵士たちには燃料ですから!」


笑うルーラに押され、次に案内されたのは奥の静かな小部屋。
入口には「若き兵士の部屋」と書かれた札が下がっていた。


「ここは……?」
「幼虫の育房です。育成係の成虫が
交代で面倒を見てるんです」


中を覗くと、小さな丸い繭のような部屋に、幼いスズメバチたちがいた。
ふわふわと丸く白い柔らかい体つきで
翅も生えていない。


その目の前にいた成虫が、何かを丸めて差し出す。



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