天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
スズメバチの王国、【ヴェノミール】の王宮――
暗紅の天蓋が波打つ寝室に、毒花の甘い香りが満ちていた。
ミツバチの姫【カミリア】はぎゅっと手を握る。
ろうそくの灯りに照らされた肌は透き通るように白く、背には透明な薄翅。
身じろぐたびに繊細な翅音が響く。
(怯えちゃだめよ。私はミツバチの王国、【フロライア】の盾。
なんとしても、スズメバチの王から気に入られなければ……)
翅のふるえを抑えるように、カミリアは深く息を吸い込んだ。
──ヴン……
突如響いた、重く低い翅音。
……スズメバチの翅音だ。
「……っ!」
カミリアが息を呑む。
背後から響いたのは、深くしなるような男の声だった。
「……俺が、怖いか?」